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翌日、壬生浪士組屯所の八木邸の前に私は立っていた。
突然の見ず知らずの女子の登場で門の番をしていた隊士も驚く。

さらに用事が芹沢さんにあるなどと言い出したのでさらに驚かされた。




「ですから、芹沢さんに伊勢が来たと取り次いでいただければ分かることです」




「芹沢さんがどんなお方なのか知らないのか?!あのお方にお前なんかが会えばすぐ首を斬られるぞ」




私の身を案じてくれているのは分かるが話が進まずに困り果てる。

そこに、たまたま門の前を通りかかった藤堂さんが私の姿に慌てて駆け寄ってきた。




「伊勢?!どうしたんだよお前」




「あ、藤堂さん!良かった....
お忙しいところすみません、芹沢さんに伊勢が来たと取り次いでいただけませんか?」




芹沢さんの名を口にした途端藤堂さんは青ざめる。私の両肩を掴んで顔をのぞき込んできた。




「お前....芹沢さんと何かあったのか....?!」




ああもうまたこの繰り返しか、あの人は本当にロクなことをしていないらしい。
私は頭を抱えた。

そこに、ようやくお目当ての人が現れる。




「フン、ようやく来たか....待っていたぞ小娘」




私の姿を見つけ、目を細めて笑った芹沢さん。
その姿に藤堂さんや隊士達は驚きの表情を隠せずにいた。




「小娘じゃありません!伊勢です!」




「フハハハハッ、すまん
それより早う来い伊勢」




町民どころかこの壬生浪士組の中でも恐れられている芹沢さんが、まさかこんな小娘に叱られて斬らないだなんて。

あの娘は何者だ、なんて声が客間に向かう途中何度も聞こえた。




「大変だったんですよ、隊士さん達に疑われて」




「当然だろう、わしは芹沢鴨だからな」




「悪役も大変ですね」




案内された客間を見渡しながら腰をおろす。
持っていた風呂敷に視線が注がれたので私は広げてみせた。




「言っていませんでしたっけ?
私、甘味処で奉公をさせていただいている身なんです」




「お前とは昨日会ったばかりだ、知らん」




素っ気ない返事とは裏腹にも広げた風呂敷の中から現れた甘味に芹沢さんは目を輝かせたように見えた。

取り皿に1つ団子を乗せて手渡す。

一瞬渋い顔をした芹沢さんに、ああそうかと私が先に口にした。




「毒など入っていませんよ
私の大事な甘味たちにそのようなものは入れません」




命を狙われることだってあるのだろう、
毒見役をすれば素直に口に運んでくれた。




「............悪くない」




「ふふ、甘味処の主人にも伝えておきますね」




「美味しい」と、そう言ってくれた気がして自然に笑みがこぼれる。
この人はなんて不器用なんだろうかと私は思った。




「それにしても、店の方は放っておいてよかったのか」




ここらで甘味処といえば私の奉公する店しかない。繁盛していることは来ていなくても芹沢さんだって分かっているだろう。




「今日はたまたま定休日なんですよ」




そう返せば面白い、とでもいったふうな顔をする芹沢さん。私がこれもなにかの導きでしょうかね、などと言えば満足そうにまた一つ団子を頬張った。