よほど私の発言が気に入ったのだろう。
男は高らかな笑い声をあげた。

何故笑われたのか私はわからず、呆然と立ち尽くす。




「あの....」




「フハハハハッ、小娘....お前、良いな」




男はそう言うといつの間にか目の前に立っていた。私は驚いてあんぐりと口を開ける。

月明かりに照らされ少し見えた男の目は野望の塊とも例えられそうにギラついていた。




「小娘、名をなんと申す」




その瞳に吸い込まれそうになるのをなんとか踏ん張り、私は背筋を伸ばして名を口にした。




「伊勢と申します」




「伊勢、か....良い名だな」




「!!ありがとうございます!」




私自身も大好きなこの名を褒められ嬉しくなる。お互いジッと見つめ合っていれば視界の端に鉄扇が見えた。




――あれは....!




ここらで鉄扇を使っている者などそうはいない。私は驚きと好奇心の混ざった目で男に問うた。




「あなたは....芹沢鴨という方なのですか?」




先日沖田さんや藤堂さん、斎藤さんに話を聞いて怯えていた自分は何処へやら、自然と口からその名がつむがれた。




「恐れないのか?」




芹沢さんは町民に恐れの目を向けられてきたのだろう私の行動に驚いた。

私が「先日までは怖かった筈なのですが....」と言えば満足したように鉄扇を肩にポンポンと叩いては上げ、叩いては上げを繰り返している。




「百聞は一見にしかずとは、このことですね」




「ああ、わしもそう思う」




私と芹沢さんはその日から不思議な関係になった。