「芹沢さん、怖がられてるでしょ」




沖田さんに話しかけられハッと我に返る。
確かに最初こそ「壬生浪士組」が恐れられていたが今お客様達の口から聞くのは「芹沢鴨」の悪い噂ばかり。

私はどうしようかと思ったが頷いておいた。




「実際にそのような方なのですか?」




沖田さんや藤堂さん、斎藤さんを見る限りやはり壬生浪士組の方々は悪い方とは思えない。

質問に答えてくださったのは斎藤さんだった。




「先程、平助が話したことは真実だ....
芹沢さんは目に余る行動が多い」




「一君がそんな風に言うなんて珍しいね」




沖田さんは妖艶な笑みを浮かべて斎藤さんを見据える。そんな沖田さんに斎藤さんは「事実だからな」と返した。




「そう....ですか」




そんな横暴な行いをする人にこの地を任せてもいいのかと私は少し俯きがちになる。
いつか、この甘味処にもやって来て何かされるのではないか。

不安になった。




「............」




そんな私に斎藤さんが空の湯呑みを差し出した。私は意図が分からず小首を傾げる。

沖田さんや藤堂さんはそれを見て理解したのか同じように空の湯呑みを差し出した。




「なあ、伊勢
俺達って意外と巡察だけじゃなくて机の上の仕事も多いんだよ!な!総司!」




「?....そうなんですか?」




「そうそう、ちなみに頭を使った後には甘い物と美味しいお茶がいいらしいんだよね、一君」




「ああ....もはや此処無しでは
我々の仕事ははかどらないやもしれん」




「え....」




驚きの顔を向ければ三人ともにっこり微笑んでいる。




――それは、ここを守ってくださるということですか。




遠まわしながらも
ハッキリと伝わってきた三人の意図。
私は嬉しくなって思わずふにゃりと笑ってしまう。




「「「――」」」




しかし、その瞬間三人が固まってしまい。
何かあったのかと慌てていれば、見事に三人揃った盛大なため息をつかれた。

私はよくため息をつかれるな....と思いながら三人の湯呑みを受け取り勝手場へ向かった。




「............」




「平助」




「....なんだよ」




「総司、あんたもか」




「僕は違うよ、一君こそどうなのさ」




「俺は....」




「「「ハア」」」




こんなやり取りがこの後四、五回繰り広げられていたことを伊勢は知らない。