「とりあえず先輩とはお付き合いできません。」
と言ってその場を去る。
ってヤバッ! こっちくる。隠れなきゃ。
急いで物陰に隠れる、が、西村君にバレてしまった。
「なにやってんの。」
いつもより冷たい声の西村君にビクッとする。
「えっと、これは…あの…」
「まあいいや。とりあえず帰るぞ。」
「…うん。」
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帰り道、私と西村君の間には会話が全くなかった。
そして今は私の家の前。
チラリと西村君の方を盗み見る。西村君は難しい顔をしていて帰ろうとしている。
「西村君、待って!」
「なんだよ。」
「な、なんで告白断ったの?
中村先輩、学校一の美女だよ…?」
すると西村君は私を睨んだ。
「…今、俺はお前と付き合ってんの。
他の奴の告白なんて断るに決まってるだろ。」
「じゃあ、なんで私に告白したの?
しかも一週間だけって…。」
私がそう言うと西村君は私を抱きしめた。
「…お前、もし俺が普通に告白したら付き合ってた?」
普通に告白って、一週間じゃないってことだよね。
「多分、付き合ってない、と思う。」
だってあの頃は西村君が苦手だったんだもん。
すると西村君は抱きしめる腕を強くした。
「だからだよ。だから一週間にした。
俺、お前のこと好きだから。断れるのは嫌だった。」
ーードクンッ
心臓が強く鳴る。
「好きだよ、彩。」
そう言って西村君は帰って行った。
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ドキドキドキドキ
あれから1時間経っても胸の鼓動が落ち着かない。
ーー好きだよ、彩。
この言葉が脳裏に焼きついて何回もリピートされる。
ーーどうしよ。私気づいちゃった…。
私、西村君のことが好き、なんだ。
”好き”
初めての感情に少し戸惑う。
あと、3日、あと3日で西村君と私は他人に戻る。
…それに、マナちゃんの件もあるし。
うん、とりあえずテレビでも見て気分転換しよ。ポチッ。
テレビの電源をつける。
お、歌番組だ。
『♩〜 初恋は叶わないーー」
ブチッ。
その瞬間テレビを消した。
…こんな時に、初恋は叶わない、とかやめてよ。
はぁ、どうしよう。本当、今頃気づくなんてね。バカじゃん、私。諦めるしかないよね。
西村君、別れたら私のこと忘れちゃうのかな。それで他の子と幸せになって、
その他の子に意地悪して抱きしめてキスもする。
私はそれでもいいの?
ーー嫌。絶対にやだ。
だったら諦めたらダメなんだよね。
告白、する。最終日に。
断られてもそれでいい。嫌われてもいい。私の想いを伝えるんだ。
朝。
今は西村君と登校中。
西村君が好きって気づいちゃったから私はさっきからドキドキしぱっなし。
はあ、なんで西村君はこんなにかっこいいんだろ。
さっきから西村君のことをじーっと見てると私の視線に気づいた西村君は不思議そうな顔をした。
「どうかした? 俺の顔になんかついてる?」
その瞬間私の顔は真っ赤に。
「な、なんでもないっ!」
「ふーん? 顔真っ赤だけどね。」
な、なんでこんなに西村君は意地悪なんだ!
…でもかっこいいって思っちゃうよ。
私、重症だな…。
えっと、病名は 西村君大好き病?
って私ネーミングセンスなさすぎ!
そんなバカなことを考えてると教室についた。
お昼休み。
「マナちゃん、ちょっといい?」
今から、マナちゃんに私も西村君のこと好きだって伝えるんだ。
「うん、いいよ。」
では、屋上へゴー!
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「で? 彩ちゃんどうしたの?」
私は3回深呼吸をした。
よし、言うぞ!
「あのね、私もその、西村君のことが、す、す、好きなんだ!」
い、言えたぁ。
私がホッとしているとマナちゃんはワナワナと震え出した。
「マ、マナちゃん?」
「あ、あり得ないわっ! サイテー!
なによ、それじゃあ親友のふりをしてた意味がわかんないわよ!」
”親友のふり”?どういうこと?
「あんた、どういうこと?って顔してるわね。いいわ、教えてあげる。
あんたは覚えてないだろうけど私達、中学同じなの。
あんたは、あんたは私の大好きだった彼氏を奪ったのよ!」
「なっ、奪ってなんか…」
私が反論しようとするとマナちゃんはそれを遮った。
「あんたは奪ったつもりはなかったかもしれないけど私の彼氏はあんたを好きになったから別れよう、って言ったのよ!
本当サイテーよね。あんたは。
なにをしたの? 私の彼氏は学校一の美少女にもなびかなかったのに…。
だから私はあんたと同じ高校行って親友のふりをしてたの。今まで。
それでたった一週間だけどあんたと付き合うことになった西村君を奪おうとしたの。
それであんたに西村君好き宣言をして、あんたが、
”私も西村君のこと好きなのに、マナちゃんも好きだしどうしよ”
って苦しむことを予想してたのに…
まさか堂々と西村君好き宣言されるとは思わなかったわ。
どんだけ自分に自信があるのかしら…。
たいして可愛くないくせに。」
そこまで言うとマナちゃんは私を睨んで
「西村君が好きなら別れてよ。それで苦しんでよ。」
と言った。
「それでマナちゃんが傷ついたんなら謝る。ごめんなさい。
でも、マナちゃんも謝ってよ。
私、マナちゃんのこと大好きだったんだよ? 信頼してたんだよ?
なのに、親友のふり、なんてひどい。」
私がそこまで言うと屋上の扉が開いた。
「はいはい、2人ともそこまでー。」
入ってきたのは…
「由佳ちゃん ! ? 」
だった。
「ったく、2人の帰りが遅いと思ったらこの様よ。」
「由佳ちゃん…いつから?」
私が聞くと由佳ちゃんは、うーん、と考えてから
「彩が『西村君が好き』って言ったところからかな。」
「最初からじゃん!」
「彩、落ち着いて。
それよりマナ、今まで親友のふりしてたんだって? サイテーはそっちよ。
それに彩は何にも悪くないんだからね。
マナ、あんたに魅力がないだけ。
あんたの彼氏もあんたと別れて良かったわ。だって、こんな性格の悪い彼女、私ならお断りだね。
彩、教室戻るわよ。もう授業が始まる。」
「へ? あ、うん。」
そして私たちは屋上をあとにした。
放課後。
西村君と下校中。
「西村君、手繋ぎたい。」
キャー、言っちゃった!
「…わかった。」
そう言って西村君は手を繋いでくれた。
「西村君の手、あったかいね。
この手好きだなぁ。」
「お前は無意識にそういうこと言うからすごいと思う。」
へ? 無意識? そういうこと?
どういうことだろ。
すると西村君は心配そうな顔をした。
「なあ、今日なんかあった?」
「な、なんで?」
ま、まさかマナちゃんのことバレてる?
「いや、なんか無理して笑ってるかんじだから。」
「え、な、何にもないよ?」
「ならいいけど。」
ヤバイヤバイヤバイ!
心配してくれるとか超胸キュンなんだけど!
「西村君、かっこいい…。」
「え?」
「あっ! 今のは聞かなかったことに…」
「無理。 えっと? 誰がかっこいいの?」
思わず呟いた言葉が西村君に聞こえていたらしく、私に、意地悪する西村君。
「…っ! に、西村君!
西村君、かっこいいの!」
「へえ? それはどーも。でも…」
そう言って西村君は私を抱きしめた。
「お前も可愛いよ。」
「や、西村君? みんな見てるよ!
恥ずかしいよ!」
「恥ずかしくねえよ。それに見せつけとけばいいじゃん。」
そう言って私を抱きしめたまま離さない西村君。