一週間だけ付き合って


怖い、怖い、怖い!


「…に、にしっ西村君、わ、私ちょっともうギブ…だから映画館の外で待ってるね…。」


やっとの思いで西村君に伝えると西村君は立ち上がり、


「俺も行く。」


と言って私の手を掴んで映画館を出て行った。


映画館を出ると西村君は意地悪そうに私の顔を覗き込んだ。



「大丈ー夫? ものすごく真っ青だけど。そして涙目。」



「うぅ…だって怖かったんだもん。」



喋ったら同時に涙が出てきた。

すると西村君は私を抱きしめた。


「ったく、しょーがねえな。泣き止めよ。俺が悪いみたいじゃん。」


そう言いながら私の背中を優しく叩く。


「…でも西村君が悪いんだもん。私を騙すから。だから泣き止まないもん。」



「なんだよそれ。子供かよ。悪かったからさ。泣き止んでよ。本当。

俺、泣いてるお前もなかなかいいけどやっぱ笑ってるお前の方がいいじゃん?

だから泣き止んで。ね?」



優しい言葉にうん、と頷きそうになる。
でも私は負けないんだからね。


「笑ってる私の方がいいなら、ホラー映画見せないでよ…。

泣かせたの西村君じゃん。」




「じゃあ、許してくれないの?」



西村君が悲しそうに言う。



「うっ…、許さないし。」



私がそう言うと西村君は私の頭を撫でなが



「本当は許してるくせに。」



と言って笑った。



「許してないもん!」



「無理しないで。あ、それともキスしてほしいの?」



「な、なんでそういう発想になるの⁉︎」



私がそう言うと西村君はふっと笑ってから顔を近づけて


ーーチュッ


私のおでこにキスをした。


「な、なにするの!」


「なにって、さっき転びそうになったのを助けたお礼。」


キスなんて初めてされた…。おでこだけど。



「俺って優しいよな。」


「ど、どこがっ!」


「お前のファーストキス、奪わなかったから。あ、それとも、奪われたかった?」


「なわけないでしょっ!」


「わーってるよ。帰るか。」


「…うん。」


おでこだけどキスされたからまだ心臓がドキドキいってる…。


西村君ったら、顔色一つ変えないでさ。
私ばっかりひどい!

そーだ、いいこと考えた!


ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー



家に着いた。



「じゃあな。」


そう言って帰ろうとする西村君。


「あ、待って。」


西村君を引き止めて少し背伸びして、


ーーチュッ


西村君のほっぺにキスしました。


ふふーん、これで西村君も顔が真っ赤なはず。

チラリと西村君を見る。
でも…全然顔が真っ赤じゃなかった。
むしろ、意地悪そうに笑ってる。


「それ、誘ってるの? そんなことされると俺、キスしたくなるんだけど。」


「んなっ! 誘ってないっ!
じゃあね、バイバイ!」


私は急いで家の中に入る。


だから、西村君が


「ったく、可愛すぎるんだよ。あのバカ。」


って言ってるのは知らない。

「行ってきまーす。」


朝、西村君と登校。



学校につき、教室の扉を開ける。



あれ? おかしいな。


いつもは教室の扉を開けたところでマナちゃんが私に抱きついてくるのに、今日は抱きついてこない。


もしかしてマナちゃん、学校休み?


そう思ってると由佳ちゃんが来た。


「あ、由佳ちゃん、おはよ。

マナちゃんは?」



「おはよ。

マナね、なんか今日安田たちといるのよね。なんか用事でもあるんじゃない?

マナと安田、委員会同じだし、委員会関係の用事だと思うけど…。」



「へー。じゃあ学校休みじゃないんだね。よかったあ。

マナちゃんが学校休みとか心配だもんね。」



…なんか嫌な予感がする。



なんだろ、この感じ。

マナちゃんが安田さんと一緒なのは委員会関係でよく見るから別に違和感なんてないのに。

でも、なんか嫌な予感がするんだよなぁ。

ーー”嫌な予感”ほど当たるものはない。



お昼休み。



今日は由佳ちゃんとお弁当を食べた。

マナちゃんは安田さんと食べている。
なにやら真面目な話らしく2人とも真剣な顔をしている。


…委員会、よっぽど入り込んでるんだなぁ。


由佳ちゃんと一緒にマナちゃんたちを観察しているとマナちゃんが私たちの方へ向かってきた。



そして、


「彩ちゃん、ちょっと来てー。」



と天使のような顔で微笑まれてしまった。

おぉ、可愛い…!
女の私でも惚れそうだわ。


「うん、いいよ。由佳ちゃん待っててね。」


「うん、じゃあね。」



由佳ちゃんと別れマナちゃんについていく。



「どこ行くの?」


「んー? 屋上だよ。」


屋上…? なんでだろ。


そう思ってるうちに屋上についた。

「マナちゃん? どうしたの?」

屋上につくとマナちゃんは深刻そうな顔をして私を見ている。


「マナちゃん…?」


「あ、ごめん、ボーッとしてた。」


「それはいいんだけど、どうしたの?」


私がそう聞くとマナちゃんはいつもだったら考えられないほど真剣な顔をして


「実は、私…西村君のこと好きになっちゃったの。」


と言った。


「へー、なんで?」


「えっと、さっきなんだけどね、
私、変な奴らに絡まれたの。
そしたら西村君が助けてくれたんだ。」


「ふーん、意外といい奴なんだね。西村君って。」


私がそう言うとマナちゃんはなぜか驚いた。


「えっ? 彩ちゃん、怒らないの?」


「へ? なんで?」


「いや、だって私、仮にも彩ちゃんの彼氏を好きになっちゃったんだよ?」


なーんだ、そんなことか。怒るわけないじゃん。


「マナちゃんが好きになる人のことを口出しする権利は私にはないの。たとえそれが私の彼氏でもね。


それに、私たち、一週間の関係なんだよ? ってか私西村君のこと好きじゃないし。むしろマナちゃんを応援するよ。」



私がそう言うとマナちゃんはホッとしたように笑った。



「ありがとー。じゃあ堂々と西村君を好きでいるよ。」


「うん、頑張ってね!」


とここで、昼休み終了のチャイムがなった。

放課後。


よし、帰ろうっと。

…あれ? 西村君がいない。
でも、机の上に鞄はあるしなぁ。
トイレかな? それとも先生の手伝い?

まあ、どっちにしろ待っておけばいっか。
っと、その前にトイレ行こ。


ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー



トイレから教室へ戻る途中、誰かの話し声が聞こえた。


…あれ? この声って西村君の声じゃん。
声のする方へ向かう。するとそこには西村君と学校一の美女、中村 美紅先輩がいた。


「話って何ですか。」


「あのね、私、西村君のことが…好きなのっ。だから付き合って、ね?」


「無理です。俺、彼女いるんで。」


「で、でもその彼女、どうせ告白断る口実に付き合ってるんでしょ。私、知ってるのよ。西村君に、婚約「先輩、黙って。」


先輩の言葉を遮ってから西村君は改めて言う。



「とりあえず先輩とはお付き合いできません。」


と言ってその場を去る。


ってヤバッ! こっちくる。隠れなきゃ。
急いで物陰に隠れる、が、西村君にバレてしまった。


「なにやってんの。」

いつもより冷たい声の西村君にビクッとする。


「えっと、これは…あの…」


「まあいいや。とりあえず帰るぞ。」


「…うん。」

ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー


帰り道、私と西村君の間には会話が全くなかった。


そして今は私の家の前。

チラリと西村君の方を盗み見る。西村君は難しい顔をしていて帰ろうとしている。


「西村君、待って!」


「なんだよ。」


「な、なんで告白断ったの?
中村先輩、学校一の美女だよ…?」


すると西村君は私を睨んだ。


「…今、俺はお前と付き合ってんの。
他の奴の告白なんて断るに決まってるだろ。」



「じゃあ、なんで私に告白したの?
しかも一週間だけって…。」



私がそう言うと西村君は私を抱きしめた。