次の日のお昼休み。
「昨日までのこと謝りたいから来て欲しいの。
みんな、あの体育館裏で待ってるから。」
と安田さん。
珍しく安田さんは不安そうにこっちを見つめている。
「いや、別に謝ってもらわなくても…」
「ううん! どうしても謝りたいの!
お願い! いいでしょ?」
ここまで言われたら、ねえ?
「わかったよ。じゃあ行こ。」
安田さんと一緒に体育館裏に行く。
体育館裏につくとそこにはファンクラブ、取り巻きがたくさんいた。
そして安田さんたちは頭を下げて
「本当にごめんなさいっ!」
と謝った。
「えっ、いや、あの頭上げて。」
私はちょっと戸惑いながら言う。
すると安田さんは頭を上げて私を見てニヤリと笑った。
「なんて言うと思った?
私たちがあんたに謝ることなんて一生しないわ。」
そう言って安田さんはパチンと指を鳴らした。
すると、安田さんの取り巻きの1人が
バケツに水を組み始めた。
そして水が満タンのバケツを私の近くへ持ってくる。
「いい? 1、2、3であんたに水をかけるわ。
じゃあいくわよ。 1、2、3ーー」
もうダメ。そう思い目をギュッとつぶる。
でもーーいくらたっても水をかけらない。
不思議に思い目を開ける。
するとそこには焦っている安田さんたち。
ーーそして目の前にはビショ濡れの西村君がいた。
「え? 西村君、なんで…」
「いや、安田たちがお前に謝るって聞いたから面白そうだから着いてきたらこうなった。」
西村君、私を庇って水をかけられたんだ。西村君、このままじゃ風邪引いちゃうよ!
「西村君、風邪引いちゃうよ!
とりあえず保健室行こ?」
「んー。わかった。」
西村君はそう言ってから安田さんたちを思いっきり睨んで
「お前ら、もうこいつに近づくな。」
と言った。
安田さんたちは顔を青ざめてたり、俯いていたり。
そんな安田さんたちをおいて西村君は私の手を引いて保健室へ向かった。
保健室へ着くと先生にすぐ帰るように言われた。
私も西村君の付き添いで帰っていいことになった。
そして今下校中。
「西村君、寒くない?」
西村君はあれから着替えてない。予備の着替えがなかったのだ。
だから今西村君はビショ濡れの服を着ている。
「んー、寒い。」
まあそりゃそうだと思うけど。
「うーん、あ、じゃあ私のタオル使って! はい。」
「ん。サンキュ。」
そう言って私のタオルを受け取る西村君。
…ビショ濡れの西村君、なんかカッコいいんだけど。
いや、いつもカッコいいんだけどね?
でもそのカッコよさに水に濡れることで少しなんていうのかな?
あの、その、いつもより色っぽい。
そして私の家へ着く。
「じゃあな。」
そう言って1人で帰ろうとする西村君。
「ちょっと待って!
今日は私が送ってくから。」
迷惑かけたんだしそれくらい当然よね。
「え、わかった。ありがとな。」
「いや、それはこっちのセリフ。
本当ありがと。庇ってくれて。」
「別にそういうのはいいよ。
好きな女を守るのが当たり前なんだから。男はさ。
それに、お前に風邪引いて欲しくないし。」
こ、この人はなんでそんなことをサラッと言えちゃうの?
私、どういう反応すればいいの?
…好きな女とか照れるよ。
「あ、ありがと…」
「どういたしまして。
じゃあ俺の家ここだから。じゃあな。
気をつけて帰れよ。」
「うん、バイバイ。」
そう言って私は西村君に背を向けて歩き出す。
…後ろから西村君の視線を感じる。
チラリと後ろを見ると西村君はジッと私を見ていた。
これって見送ってくれてるんだよね。
なんか嬉しい…。
でも早く家入って着替えて欲しいよ。
そんな私の願いは届かず、
結局西村君は私が角を曲がるまで見送ってくれた。
次の日。今日は土曜日で学校休み。
そういえば西村君、大丈夫かな?
熱出てないかな?
心配だからメールしたいけど、
もし熱とか出てたら返信するのもキツイだろうし。
うーん、と私が悩んでいると携帯が鳴った。
この音は、電話? 誰から?
そう思い電話にでると、
「よぉ。」
と真の声が。
「…真、何?」
「うわ、素っ気ねえな。
せっかく大和の状態教えてやろうと思ったのに。」
「教えてほしいけど、その前に西村君のこと呼び捨てでいいの?」
だっていつもは大和様って呼んでるけど大和って呼んでるから違和感ありまくり。
「あー、まあ気にすんな。
それより、あいつ、今すごい高熱なんだよねー。」
今度はあいつとか言っちゃってるし…。
って、ちょっと待って!
今、高熱って言った?
「真、その話詳しく!」
「ん?あぁ。
大和、今39度あるんだよ。熱。
昨日の夜から上がり出して最初は37度だったけど、どんどん上がってさ。
で、医者はただの風邪だから心配するなって。」
それって、それって…私のせいじゃん!
「真、西村君のお見舞い行くから、なんか買ってった方がいい?」
「えっと、薬はあるから…。
じゃあリンゴ買ってきて。
大和、昔から熱出すとリンゴ食べてたんだよ。
それくらいかな。」
「ありがと! じゃあね!」
そう言って一方的に電話を切った。
よし、じゃあリンゴ買ってきますか。
リンゴを買い、西村君の家に着いた。
そして今は西村君の部屋の前でうろちょろしている。
本当に入っていいかな?
迷惑じゃないかな?
私がそう思ってるとドアが開いた。
ガチャ
「何してんの?」
と西村君の声。
「えっと、お見舞いに来まして。
でもやっぱ帰るからご安心を。」
そう言って回れ右。
そして帰ろうとしたらーー
「キャッ」
ガチャ
無理矢理西村君の部屋に入れられてしまった。
「帰るなよ…」
熱があるからかいつもより弱々しい西村君の声。
「…わかった。帰らない。
でもとりあえずベッドで寝てよ。
病人は寝なくちゃダメだよ。」
そう言って西村君をベッドに寝かす。
「あ、そういえばリンゴ買ってきたんだ。ちょっと皮…って、西村君、薬のんでないの? ダメじゃん。」
机に置いてあった薬を発見。
すると西村君はベッドにもぐって
「嫌。絶対薬飲まない。」
と言った。
…西村君ってまさか、
「薬、嫌い?」
「うん、大嫌い。世界で1番嫌い。」
「でもね、西村君、薬飲まなきゃ治らないよ?」
「じゃあ治らないでいい。」
そう言ってそっぽを向く西村君はまるで子供みたいで、いつもとは違う1面の西村君が見れて嬉しかった。
でも、それとこれとは話が別。
「薬は飲まなくちゃダメだよ。」
「嫌。」
「ねえ、お願いだから飲んで。
私1日でも早く元気になって欲しいの。」
そう言って手を合わせると西村君は渋々と言った感じで
「わかったよ、飲めばいいんでしょ。」
そう言って薬を飲んでくれた。