俺もそこまでに思い至らないまま、新宿区では最大規模の所轄である新宿中央署へ飛ばされた。


 安原とはもう長年会ってない。


 機密の件に関して聞かされたのが、十年以上前だったからだ。


 二課時代の苦いことは忘れようと思っていた。


 別に今更思い返しても仕方ないのだし……。


「トノさん」


「何?」


 デスクで島田が調書を見ながら、言った。


「この警視庁広域指定七×二事件って、確かあの羽野和夫が起こした事件ですよね?」


「ああ。……シマさん、羽野は殺人鬼だ。その事件で罪のない人たちを五人殺してる。捕まれば間違いなく極刑なんだけど、本庁の一課のデカさんたちも手が回らないんだ」


「でも、早く捕まえないと」


「それは俺たち所轄の人間がやることじゃない。いずれ本庁の関係者が動き出す」