あてもなく歩いていると、向こう側から誰かが歩いてきた。
背が高いから、男の人だろうか?
目を凝らすと、その人物がこげ茶色の髪であることがわかった。
こげ茶と言えば、どこかで見たようなーーー
「あっ!」
ゆのは思い出す。不機嫌なオズヴェルド。クレア王妃の会話の盗聴。
あの人、ツバルさん、だ。
あちらもゆのに気が付いたらしい。
立ち止まって頭を下げてきた。
ゆのもつられて会釈する。
この廊下は一本道だから、すれ違うことになる。
ツバルは歩き出していて、一歩一歩近付いてきた。
歩き方が優雅で、それでいて洗練されていて。
人懐っこい笑みを浮かべて声をかけてきた。
「探し物、見つかるといいですね」
思わず立ち止まる。
「しかし・・・きっとこんなところにはないと思いますよ」
「私は、探し物なんて・・・」
「いえ、なんとなくそう感じたもので」
オルフェにこの会話が聞こえてないかドキドキする。
「時を刻むものは、もっとわかりにくいところにあるはずです」
ーーーこの人、私が何を探しているかわかってる。
テトの側近だから・・・?
「日を改めることをオススメします。では」
今日は見つからないということなのだろうか。
ゆのはあてもなく探すのを諦めて、部屋に戻ることにした。