幼なじみはイケメン4人組



ニヤリと笑う歩夢。

……『思い出作り』を逆手に取って言葉をかけるのは、さすがだ。



「……なるほど、確かに歩夢の言う通りかも」

「なんなら旬ちゃんも誘ってさぁ、4人で出ちゃおうよ。 旬ちゃんは絶対こういうの好きっしょ?」

「あー……旬にも声かけたんだけど、出ないって言ってたよ。 忙しいんだって」



そう言って微笑んだ晃太くんが、ふと私を見た。 ような気がした。



「実行委員の仕事?」

「ううん、ミサの子守り」

「あー、なるほど。 それなら仕方ないかぁ」


「うん、仕方ない」



……いや、ちょっと。

『子守り』で納得しないでよ。



「あのね、晃太くん、歩夢。 私は別に、子守りされてる気なんてないからね? むしろ私が旬ちゃんの子守りをしてるんだからね?」

「はいはい、わかったわかったー」

「……歩夢、そのニヤニヤした顔は何?」


「別に? 俺から見たら二人とも子供だなぁって思ってるだけだよ?」

「旬ちゃんは年上で、私と歩夢はタメじゃん」

「でも二人とも子供っぽいしー」


「う る さ い」



クスクスと笑う歩夢の頭を渾身の力で叩くけれど、歩夢は笑顔を崩さない。

そんな私たちを見るマーくんが、お弁当箱を片付けながら ぼそりと言った。



「五十歩百歩、ドングリの背比べ、似たり寄ったり、大同小異」

「……ちょっと、マーくんっ」

「さてと。 図書室に行くんでお先に失礼します」



にっこりと笑い、あっという間に去っていったマーくん。

歩夢は『よく言ったぞ正人っ』と けらけら笑い、晃太くんは『歩夢も含まれてるんじゃない?』とクスクス笑う。


そんな中、私は一人 ほっぺたを膨らませながら、校舎に入ろうとしているマーくんの背中を見続けた。




………

……




その日の午後、私たちのクラスの出し物が『段ボール迷路』と『ドリンクの移動販売』に決定した。

うちの学校は、近くの幼稚園や保育園、小中学校などに学園祭の招待状を送っている。

地域の繋がりを大切にしているとかで、昔からの風習だ。


現に、私たちも小さい頃から何度も学園祭に来ていた。

そんな学校だからこそ、子供向けの展示やアトラクションがかなり『受ける』。



段ボール迷路は1時間ごとにルートが変わる仕組みで、何度でも楽しめるものにするらしい。

その構成を担当するのが、マーくんを含む男女6名。

残った生徒で段ボールの色塗りや教室の装飾作りなどを受け持つ。


うちのクラスは42人。

学園祭当日は24人が男女混合の4グループに分かれ、迷路の受付や調整を担当、2時間ごとに交代となる。

残りの18人はドリンクの移動販売を担当し、こちらも4グループに分かれて2時間ごとに交代だ。


2日目も、担当する時間帯は変わるものの、同じ班での作業となる。



私と歩夢とマーくんは当然のように同じ班となり、迷路の方を担当することになった。




開始は9時で、終了は17時。

私たちの班が担当する時間は、1日目は11時から13時までで、2日目は9時から11時までとなった。


1日目は交代の時間を気にしながらあちこち回らなくちゃいけないけど、2日目は朝の仕事が終わればあとは自由。

終了時間まで、たっぷり遊ぶことが出来る。



学園祭までの1ヶ月間、放課後は装飾作りの毎日となる。

そして、学園祭の1週間くらい前から、朝も早くに行って準備しなくちゃいけない。


……頑張って起きなきゃっ。



「ミサっちー、遅刻しないように俺が毎日起こしに行ってあげるね?」



……相変わらずのニヤニヤ顔で言う歩夢の足を思いっきり踏んづけ、声にならない悲鳴を上げた彼に満面の笑みを見せた。



「一人で大丈夫ですから。 ていうか、部屋に入ってきたら股間を思いっきり蹴りますから」

「oh……それは勘弁……」

「絶対入らないでよ? 私、マジだから」


「あい……」



そんな私と歩夢のやり取りをそばで聞いていたマーくんは、『やっぱり歩夢って馬鹿だ』と言いながら下を向き、肩を震わせながら笑っていた。




………

……




その後の数日間、私はなんとか一人で起きることが出来ていた。

ちょっと寝坊して、朝ご飯抜きの時もあったけどね……。


毎朝、マーくんは玄関のところで待ってくれていて、準備を終えて外に出た私を見て微笑む。

それが、ここ最近の朝だった。


……普段は私よりもかなり早く学校に行き、始業時間まで図書室で本を読んでいるマーくん。

だから、『待っててもらって悪いな……』と、ずっと前から思っていた。



「ねぇマーくん。 私、もう一人でも大丈夫だよ?」

「そうだね。 だいぶ余裕が出てきた感じがする」

「うん。 だから明日は先に行ってて大丈夫っ」


「ん、わかった」



マーくんはニコッと笑い、そのあとに私の頭を撫でた。



「明日遅刻しても、俺のせいにはしないでね?」

「もー、大丈夫だって!! 私、本当に一人で起きれるようになったんだよ?」

「本来なら、もっと小さい頃から一人で起きるべきだけどね」


「うぅ……それは言わないで……」



……だって、寝るのが好きなんだもん。

ふかふかベッドでゴロゴロするのが、私の至福の時なんだもん。


『地球最後の日に何をするか』と聞かれたら、当然ベッドの上で寝る。

死ぬ時は、ふかふかベッドの上で安らかに眠りたい。


それが私の希望だった。




「あ、そういえば旬兄が寂しがってたよ」

「へ? 旬ちゃんが?」

「『最近ミサとやり取りしてない』って、昨日メールで」


「……いやいや、だってそれはさ、旬ちゃんが忙しそうだからじゃん」



学園祭が近くなってきたから、旬ちゃんはかなり忙しそうに毎日を過ごしている。

朝は早くに家を出るし、帰りも遅い。

私も段ボール迷路の準備で帰りが遅くなるけれど、それ以上に遅い。


それに、学年が違うから学校でもあまり会わないんだよね。

いつもなら一緒にお昼ご飯を食べたり一緒に帰ったりするけれど、今は『実行委員の集まりがあるから来られないんだって』と、毎日晃太くんから聞いている。


……そんな感じだから、連絡しづらいじゃん。

私が連絡したら、迷惑になりそうじゃん。



「だけど旬兄は、ミサからの連絡を待ってると思うよ?」



ニコッと笑ったマーくんが、静かに静かに言った。



「今まで起こしてもらってた分、何かお礼したらいいんじゃない?」

「……お礼?」

「疲れが吹っ飛ぶような、美味しいご飯を持って行ってあげるのはどう?」




……美味しい、ご飯……。



「私、料理するのって苦手なんだけど……」

「知ってる。 でも、ミサが作って持っていったら喜ぶよ」

「んー……」



……そうかなぁ?

『こんなもん食えるかっ!!』って捨てられたりしないだろうか……。

ていうか、私の作ったものを食べて、お腹を壊したりしないだろうか……。


うー……こんな大事な時期に私の料理っていうのは、やめた方がいい気がする……。



……あ。

晃太くんちのお店のハンバーグを持って行ってあげたらどうだろう?

私たちはよくお店に言ってご飯を食べるけど、旬ちゃんはここ最近行ってないよね。

うん、大好きなハンバーグを持って行ってあげたら喜ぶかもっ。



「私が作ったのを食べてお腹壊したら洒落にならないから、晃太くんのとこのハンバーグを持って行こうと思う。
学校終わったらお店行ってハンバーグをテイクアウトして、旬ちゃんちに持って行くっ!!」

「あ、なるほど。 うん、いいんじゃないかな。
でも、事前にちゃんと旬兄に連絡しなよ? 帰宅が遅くなったら、どこかで食べてくるかもしれないし」

「うん、わかった!!」



そうと決まったら、早速連絡だっ。



【今日の夜ご飯 私がご馳走するから、何も食べずに帰宅してねっ!!】



そう書いたメールを旬ちゃんに送り、晴れ渡った空を見上げる。



「旬ちゃん、喜んでくれるよねっ」

「うん。 絶対喜ぶよ」



学校へ向かう中で、私とマーくんはお互いの顔を見て微笑み合った。




その後、旬ちゃんからすぐに返事が来た。



【期待はしてない(笑) けど、楽しみにはしてる。 なるべく早く帰るよ。】



……喜んでいいのかどうかは微妙な返事だったけれど、それでも、旬ちゃんと久しぶりに会って話せるんだと思ったら、純粋に嬉しかった。





──そんなこんなで、あっという間に放課後になった。


なんだろう、今日は時間の流れがいつもよりも早く感じた。

旬ちゃんと会えるという放課後が、楽しみで仕方なかったせい?


学園祭の準備があったからすぐに帰宅とはいかなかったけれど、『用事があるから』と、少し早めに抜けることに。

『明日は今日の分も頑張るからっ!!』と友達に約束し、マーくんと歩夢に手を振って学校を出た。



その足で、晃太くんのお父さんたちがやっている洋食屋さんに向かう。

アルバイトのウェイトレスさんを介するのは面倒だったから、裏口に回って直接おばさんにお願いしよう。 ということで、裏口のドアをノックしてから厨房に入った。



「あら、ミサちゃんいらっしゃーい」



いつもと同じ優しい笑顔で迎えてくれたおばさんに、私も満面の笑みを浮かべた。



「おばさん、手ごねハンバーグを持ち帰りでお願いしますっ!!」




家族で来た時に何度もテイクアウトしてるから、当然 今日も大丈夫。

……と、思っていたんだけど。



「あらぁ、ごめんなさい。 今日はもう、ハンバーグは終わっちゃったのよ」

「……へっ?」

「体育大学の学生さんのグループが来てね、みーんなハンバーグだったから終わっちゃったの。
歩夢くんたちもそうだけど、若い子たちって気持ちいいくらいの食べっぷりよねー」



……えぇっ!? そんなっ……!!



「ひ、挽き肉を買ってくるんで、今から作ってもらうっていうのはっ……!?」

「お店で出すお肉は、スーパーでは売ってない特別なものだからダメなのよ」

「特別じゃなくてもいいですっ!! 私個人のために……というか、旬ちゃんのために作ってくださいっ!!」


「旬ちゃんのため?」

「……旬ちゃん、ここ最近ずっと忙しくて……だから私、元気が出る美味しい料理をご馳走するって約束したんです」



旬ちゃんが欠かさず頼む、晃太くんちの手ごねハンバーグ。

……特別なお肉じゃなくても、お店の味に近いものは出来るはず。

だから……──、



「じゃあ、ミサちゃんが作ってあげたら?」

「──……え?」



私、が……?




「お店のハンバーグじゃなくて、家庭の味のハンバーグを作ってあげたらいいじゃないっ」

「なっ……無理ですよっ!! 私 料理なんて全然っ……。
それに、私の料理を食べて旬ちゃんがお腹を壊したら大変ですもんっ!!」

「ちゃんと火を通せば大丈夫よ。 作り方は教えてあげるから、頑張って作ってみたら? 何事も勉強よ?」



ニコッと笑ったおばさんと、その近くに居たおじさんが視線を合わせて笑い合う。


その後、おじさんは手書きのメモを私にくれた。

そこにはお店のハンバーグの作り方が事細かに書いてある。



「簡単だから大丈夫。 ミサちゃんなら出来るよ」

「でも、おじさんっ……」

「おじさんもね、ミサちゃんくらいの時は全然料理なんか出来なかったんだ。
だけど食べるのは好きだったから、色々なお店でハンバーグを食べたよ。
そうやってるうちに『自分で作りたい』って思うようになった。 『世界一のハンバーグを作りたい』って思ったんだ」

「……」


「いっぱい料理の勉強をして『今』があるんだよ。 だからね、ミサちゃんも出来るよ」



晃太くんそっくりの笑顔で、私を優しく見るおじさん。

……おじさんは小さい頃からずっと私を可愛がってくれていて、娘のように思ってくれていると思う。

そのおじさんが『出来る』と言ってくれた。


私なら出来る。

きっと、出来る。



「……私、頑張ってみます」

「うん」

「作り方、教えていただいてありがとうございますっ!!」


「何かあったら電話して? なんでも教えてあげるから」

「はいっ!!」



おじさんとおばさんに深々と頭を下げたあと、私は近所のスーパーへと走り出した。