幼なじみはイケメン4人組



──廊下が、静寂に包まれる。



「……何がどうなってんだ?」



意味がわからない。 と言った感じの声が、ポツリと放たれた。

だけど誰も何も答えずに、相変わらずシーンとしたままだ。



……その静寂を破ったのは、意外な人物。



「旬くんっ、まだ帰らないの?」



……透き通った綺麗な声。

私は下を向いたままだったから、その人の顔はわからなかったけれど……でも、頭の中にその人の顔は浮かんでいた。



体育館で、旬ちゃんと一緒に居た人……。

きっと今の声は、高橋 美玲さんだ。



「美玲」



……旬ちゃんが彼女のことを名前で呼んだ。

しかも呼び捨て……。


……高橋さんは旬ちゃんのことを名前で呼んでいたし、旬ちゃんもまた、高橋さんのことを名前で呼んだ。

やっぱり二人は、いい感じなんだ……。



「……」



胸がズキズキと痛む中で、マサくんの制服をギュッと掴む。

……今すぐここから離れたい。 二人が一緒に居るところを見たくない……。


そんな思いでマサくんの制服を掴んだら、マサくんは私の思いに応えてくれるかのように踵を返した。



「おい、政宗?」



旬ちゃんの声が響くけれど、マサくんは歩みを止めない。



「ちゃんと送るから心配しないで。 じゃ、また明日」



……相変わらずの柔らかい声で言ったマサくんとともに、私はその場を離れることに成功した。




………

……




2年生の教室に行くには遠回りとなってしまったけれど、私とマサくんは予定通り教室に来ていた。

もう誰の姿もなく、廊下以外は全部真っ暗だ。


ロッカーからカバンを取り出したあと、小さく息を吐いてから歩き出す。



「ミサちゃん ごめんね。 俺、余計なことしちゃったかな?」

「……ううん、あの場所を離れたかったから、凄く助かったよ」

「そうじゃなくてさ、『俺がミサちゃんのそばに居るから』って言葉……迷惑だったかなと思って」



……あの時のあの言葉によって、場は静寂に包まれた。

みんながどういう顔をしていたかはわからないけれど、でも私は、迷惑なんかじゃなかったよ。



「……なんかね、凄く嬉しかったんだ。 そりゃあ、ビックリはしたけどね。
でも『やっぱりマサくんはいい人だなぁ』って思ったし、こういう時にそばに居てもらえるのって、凄く嬉しいよ」

「そっか」



ニコッと笑うマサくんに、私も笑顔を返す。

……幼なじみ以外の男の子とこんな風に笑い合うなんて、今まで1度もなかった。

今日会ったばかりのマサくんとこんな風に笑い合えるなんて、想像もしていなかった。



「……マサくん、隣に居てくれてありがとね」

「なんなら一生隣に居る? 俺が守ってあげるよ?」

「マサくんは委員長さんが好きなんでしょ?」


「うん。 でもミサちゃんのことも好きだから、俺が委員長にフラれた時は俺と付き合お?」

「絶対付き合わないよ。 ていうかその言い方ちょっとヒドいよね」

「あはは、ごめん」



そんなことを言いながら昇降口へと向かい、靴を履き替えてから学校を出た。




旬ちゃんたちは既に帰ったのか、まだ3年生の教室のところに居るかはわからないけれど……私たちは、誰にも会うことなく外に出た。


そして、徒歩5分の家に無事到着。

『明日の朝迎えに来ようか?』とマサくんは言ったけれど、『大丈夫だよ』と返して微笑んだ。


……大丈夫。 私は、大丈夫。



「とりあえず連絡先の交換はしとこ。 なんかあったらすぐ電話ちょうだい。 あ、俺は何もなくても電話するけどね」

「ふふっ、わかった」



門のところで連絡先の交換をし、確認が済んだあとにマサくんは帰って行った。



ふと、旬ちゃんの家へと目を向ける。

……旬ちゃんの部屋はまだ暗いし、他のところも電気はついていない。



「……まだ、高橋さんと一緒なのかな……」



……ズキズキと胸が苦しくなるけれど、『私は大丈夫』と言い聞かせながら、静かに家の中へと入った。




──その後、旬ちゃんからの連絡はなかった。……というか、晃太くん、歩夢、マーくんからも連絡はないままだ。

こっちから連絡すれば返事をくれたと思うけれど、何を言えばいいかわからなかったから、結局そのまま何もしなかった。


唯一メールしていたのは、家の前で連絡先の交換をしたマサくんだ。

……マサくんは一緒に居てくれる。 一緒に笑ってくれる。

それだけが今の私の心の支えだった。




………

……




学園祭2日目の朝。

今日の私は、目覚ましのアラームが鳴る前に目を覚ましていた。


いつものようにゴロゴロはせず、すぐに体を起こして準備を始める。

目はまだ少し腫れていたけれど、化粧すればバレることはないと思う。


……よかった。

今日は、ちゃんと笑っていよう。



「大丈夫。 私は大丈夫」



昨日から何度も繰り返してきた言葉をまた繰り返し、深呼吸。

いつもよりも30分近く早く家を出て、太陽の光を浴びながらグーッと体を伸ばす。



「よしっ、行こう!!」



昨日の夕方は教室に戻らずにサボっちゃったけれど、今日はしっかり働かなくちゃ。

9時から11時まできっちり働いて、そのあとは……まだ決まってないけど、楽しい学園祭にしようっ。

みんなと一緒に作り上げてきた学園祭を、最高のものにするんだ。

そのために頑張ってきたんだもん、しっかりやらなくちゃねっ。



「ファイトだ、私っ!!」



徒歩5分の道を、全力で駆ける。

大丈夫、私は元気。


いつも通りの私だ。




「あっ、晃太くんっ!!」



昇降口に入ろうとした時に、ちょうど靴を履き替えようとしてた晃太くんを発見した。

私を見て心底 驚いた顔をしたけれど、すぐにいつもみたいに微笑んだ。



「おはよ。 ミサがこんなに早くに来るなんて珍しいね。 ていうか、一人で起きてきたんだよね?」

「うん、頑張って早く起きたんだっ」



……まぁ、本当は目が覚めちゃっただけなんだけどね。

全然 頑張ってはいないけど、でも早く起きることが出来たのは事実。



「凄いじゃん。 歩夢と正人にミサのこと頼んだのに、まさか二人が置いてけぼりにされるなんて思ってもみなかったよ」

「あっ、もしかして私が学校来てるのを知らないで、二人が遅刻しちゃうかも?」

「その可能性もあるから、ちゃんと連絡しときな?」


「うんっ」



いつも通りの笑顔で話をする私と晃太くん。

大丈夫、いつもとおんなじだ。


いつもみたいに、私も晃太くんも笑っている。



「じゃあ女装コンテストの準備があるから、またあとでね。 何かあったらメールして」

「うん、またねー」



ひらひらと手を振る晃太くんに私も手を振り、靴を履き替えてから教室に行った。

さすがにまだ誰も来ておらず、他のクラスにも人は居ないみたい。



「……歩夢たちへの連絡は、メールよりも電話の方がいいかな?」



その方がすぐに気付くと思うし、メールを送るよりも楽ちんだ。

まずは歩夢へと電話をかける。


コール音が1回、2回……3回目の途中で相手が出た。




『はい、もしもし』

「あ、もしもし私だけど……って、その声、マーくんっ!?」

『うん、俺』



あれっ。 私、間違ってマーくんにかけた?



「あのー……これって歩夢の携帯、だよね?」

『ううん、俺の携帯』

「……なんで?」


『いや、なんでって言われても……画面に表示されてるの、俺の番号だろ?』



そう言われたあと、耳から携帯を離して画面を見ると……あれ……確かにマーくんの名前が表示されてる。

なんでだろう。

確かに歩夢の携帯にかけたと思ったんだけど……。



「んー……まぁいいや、二人に電話しようと思ってたから、結果オーライってことで!!」

『で、どうしたの?』

「あ、えっとね、実はもう学校に来てるんだ。 だから、マーくんと歩夢もそのまま学校に来て大丈夫だよ?」


『あー……そっか、わかった。 今ミサの家の前だから すぐ行くよ』

「え、もう私んちの前だったの!? 早くないっ!?」

『まぁ、他にやることもなかったしね。 じゃあ切るよ? すぐ行くから』


「うんっ」



その後、電話はすぐに切れた。


マーくんもいつも通りだったし、私もいつもと同じ。

歩夢ともこの調子で話をしようっ!! と思いながら、今度こそ歩夢の番号を表示させ、ボタンを押した。




1回、2回、3回、4回……5回目のコール音の途中で電話が繋がった。



『もしもーし、日下部 歩夢のセレブで優雅なプライベートの朝を邪魔するのはどちらのミサっちですかー』

「……なんか、どこを突っ込めばいいのかわかんないんだけど……えーっとね、とりあえず私、今 学校に居るんだ」

『へ? ミサっちもう学校なの? 俺 今さっき起きたばっかりだよ。 じゃあアレか、今日はおはよーのチューはなし?』


「『今日は』っていうか、したことなんかないけどね」

『いやいや、実は寝てるミサっちに毎朝チューしてるんだよ?』

「はいはい、わかったわかった。 じゃあ学校で待ってるから、早くおいでね」



そう言ったあと、歩夢の返事を聞く前に電話を切った。

歩夢は歩夢のままだなぁ。 なんてことを思いながら笑みを浮かべる。


その時に、マーくんが廊下を駆けてくるのが見えた。



「おはよ、ミサ」

「おはよっ!! ……ていうか走ってきたの? なんか、メチャクチャ呼吸 荒いんだけど……」

「走ったよ。 全速力で走って、逃げてきた」


「逃げてきた?」



ハァハァと肩で息をするマーくん。

こんな風に疲れてるマーくんは見たことがない。

いったい、何から逃げたんだろう……?



「おいマーくん!! なんで逃げるんだっ!!」

「……あ、また来た……」



廊下の向こうから『うおぉーっ』と走ってきた茶髪の男子生徒──マサくん。

あぁ……マサくんから逃げてきたんだ……。



「お前っ、なんで俺の顔 見た瞬間に走って逃げてんだっ!!」

「それは、つい本能で」

「なんでだよ!! 俺より優しい奴なんかこの世に居ないだろっ!!」


「あー、そうですね、はい。おっしゃる通りです」

「……この野郎、可愛くない後輩だなっ」



マーくんのサラサラヘアーをグシャグシャっとしたあと、マサくんは私を見てニコッと笑った。




「ミサちゃんグッドモーニング!! 俺と付き合おうっ!!」

「おはよ、マサくん。 今日も変な人だねぇ」

「ちょ、俺は本気なのにっ。 俺と結婚してくれよー」


「あはは」

「『あはは』じゃねぇからっ」



そんなやり取りをしながら笑い合う私とマサくん。

隣に居るマーくんも、なんだかんだで楽しそうな顔してる。



「ミサちゃんとマーくんと歩夢は、朝イチの仕事?」

「うん、11時まで仕事。 マサくんは?」

「フリー。 に なりたいけど、昨日の仕事 途中で放り出しちゃったから、多分どっかで雑用かなぁ。 で、14時からドレスの準備ー」


「え、もしかして女装コンテスト出るのっ!?」

「ちゃうちゃう、俺は準備する側っ。 化粧は女子が担当するけど、着替えの手伝いをするのは男子なんだ。
あ、晃太に聞いてたけど、マーくんと歩夢も出るんだよねー?」



ニヤリ、マサくんが笑う。

その視線の先には、イヤそうな顔のマーくんが居る。



「俺が可愛いドレス着せてあげるからさぁ、覚悟しときな?」

「……政宗さん、そういう趣味があるんだ?」

「そうそう男の娘が好きで……って、なんでやねん。
俺はなぁ、ちっちゃくて可愛くてちょっとSでMな女の子が好きなんだよ」


「SでM……あぁ、ツンデレってやつか」

「そうなんだよっ。 ツンとデレの絶妙なハーモニーが大好きなんだっ」



と、変なことを言って一人で盛り上がるマサくん。

ふと、その後ろの方からズンズン近づいてくる女子生徒が見えた。


この人、昨日体育館の前で晃太くんと話してた……クラスの委員長さん?




「まーさーむーねー……」

「うわ、委員長っ」

「なんのためにアンタを早く呼んだと思ってんのよ? こんなところで油売ってないでさっさと来なさいっ。
あ、この馬鹿が迷惑かけちゃってごめんねー。 お詫びに、うちのクラスでやってるお化け屋敷、無料で招待するから遊びに来てねっ」


「妖怪 裏表ババァ」

「黙れサボり魔っ!! ていうか誰が妖怪よっ!! 誰がババァよっ!! ほら、しっかり働きなさいっ!!」

「裏表は否定しないの?」


「うるさいなぁ。ほら、さっさと教室行くっ!!」

「へいへい、今 行くよー。 ミサちゃん、マーくん。またねー」



委員長さんに引きずられるようにしながら、マサくんはニコニコと去っていった。



「……委員長さんは、SでMかなぁ……?」

「……どうだろう。 ちっちゃくて可愛いとは思うけど、俺はツンデレの定義がよくわからないから」

「私もよくわかんないや」


「まぁ、『委員長』って感じのする人ではあるよね」

「うん、確かに」



そんなことを言いながら、私とマーくんは二人が去っていった廊下をただただ見つめていた。