私は、保育園の頃からの親友がいます
彼女とは毎日のように遊んでは、たまにお互いの家へと遊びに行くほどの大の仲良しでした

そんな彼女とは、2人だけの秘密があります
それは、保育園のすぐそばにある猫屋敷です

大人達からは、あそこは人がいないから行ってはいけない、お化けが出るよ、と何度も言われていてそれまで入ることはありませんでした

ある日のこと
彼女がその無人の家に猫が住み着いているのを見つけたのです

そして、2人でこっそりと中に入ってみました
そこにはまだ産まれたばかりなのか、ものすごく小さな子猫が2匹、その子達を守るようにして大人の猫が5匹いました

それから、私達はよくその家に行くようになりました
猫がたくさんいるから、猫屋敷 と名付けて

中でも子猫達を可愛がっていましたが、私は真っ黒な子猫を、彼女も同じ黒猫でしたが背中に白い模様がある子猫を可愛いがっていました

卒園すると共にその猫達に会うことはなくなり、彼女とも別々の小学校へと進みました


彼女と再開したのは中学生になってから

腰まであった髪はショートになり、大人びた顔つきですが、まだあどけなく、昔の面影がある女の子を一目見て彼女だ!と一目散に話しかけました

しかし、彼女から帰ってきた返事は驚くものでした

「ああ、久しぶり」

私が驚いたのは返事の内容ではありません
その、彼女の表情でした

私の知っている彼女はいつも明るくて、笑顔の絶えない子でしたが、今の表情は無表情と言ってもいいものでした

彼女は笑っているつもりなのでしょう
しかし、実際は唇の端が少しだけ上がっている程度で無理して笑っているというのがよくわかりました

目に光がないっていうのはこういうことなんだ、と思ったのを今でも覚えています


最初の頃はよく一緒にいましたが、時が経つにつれ、私は彼女とあまり話さなくなりました


そして、中学2年の夏休み
夏休み明けにすぐ文化祭があるため、学校に行って準備をしていました

ところが、寸劇で使うダンボールが足りなくなってしまったのです
困っていたところ、私と彼女が通っていた保育園でダンボールを譲ってくれるという報告が来たため、私と彼女で取りに行くことになりました


久しぶりに2人になったため、何を話していいかわかりません
横目で彼女を見ますが…やはり無表情でした

ダンボールを貰って学校に行こうとしたその時

一匹の黒猫が近づいてきました
背中には、白い模様が…

それは、忘れもしない猫屋敷のあの子猫でした
すっかり大きくなっていて、貫禄もたっぷりです

その猫は私の顔を見た後、彼女の足下へと擦り寄っていきました
彼女は驚いていたようですが、すぐに抱き上げて言ったのです

「久しぶり」

その時の事はとても忘れられそうにありません
あの無表情の彼女が、優しく、無邪気に笑っていたのですから