思い出しちゃいけない。

この思い出は心の中に封印しなければ。

そう自分に言い聞かせ、無意識に靴と靴下を脱ぎすて、蓮のもとへ走っていった。

ばしゃばしゃと海に入ると、じんわりと冷たい透き通った水が、わたしのヒートアップしかけていた頭を冷やしてくれる思いがした。

「…気持ちいいだろ?」

素直にうんとは言えなかった。

だからかわりに水をかけてやる。

バシャッ

「うわっ、何すんだよ。着替えねーんだから!」

バシャッ

お返しにわたしも水をかけられた。

「なにすんの!」

「光がかけたからだろ!」

バシャッ

「うあっ、もう!」

バシャッ

バシャッ

何度も何度も水をかけあった。

これはもう遊びの域だ。

夏の宙に舞い上がる無数の水滴。

太陽の光に照らされて、宝石のようにキラキラと輝いている。

散々水をかけまくったあげく、お互いを見ると、全身びしゃびしゃになっていた。

「ふっ」

「あ、光初めて笑った」

無意識のうちに口元が緩んでしまったようだ。

「違うっ!これはただ…「光は笑ってる方がいいぜ?」

ドキッと心臓がはねる。

どうして、どうして蓮はそんなことが平気で言えるの?

「う…うるさいっ」

わたしは急いで顔を隠すようにして海に背を向けて砂浜に上がる。

だって、今わたしの顔は…赤で染まっているだろうから…。

流されちゃダメって必死に自分に言い聞かせても…なんで蓮には負けちゃうのかな?

それが不思議で不思議でたまらなかった。