「ありがとうございます。」
先生はそう言って立ち上がり、あの女性の方へ向いた。
「残念ですが、お嬢さんは記憶障害です。」
「そっそんな!」
1番に反応を見せたのはあの女性。フラッと立ちくらみをしたのか頭に手を当てた。
驚きたいのは私の方であるのに。
どうしてこうなったのかも分からない。家族も友達も分からない。
まるで一人ぼっちのよう。
「しかし、彼女の場合は1部的なもので、日常生活のことや自分のことは忘れていないようです。」
一部的。それはきっと両親や友人を思い出せないということなのだろう。
「一部的?それなら海の記憶は戻るんですよね先生!?」
そう、女性が言うと先生は眉間にシワを寄せた。
「分かりません。それは海さん次第ですが、思い出したという人もいらっしゃいます。ただ、無理に思い出させたり刺激を与えすぎてもいけません。」