------


「すみません」


「いいよゆっくりつかって、あ、でも、彼氏とエッチなことに使っちゃだめだからね?」

「彼氏じゃないですってば」

「はいはい。」


襖をピシリと静かに閉めて、

那珂井さんは出て行った。


「いいの?ここ、普通の家じゃん」

「そう、借してくれてるの。

 私たちの休憩室に」

パートの那珂井さんは旦那さんが単身赴任で、

一人暮らしなので、
私たち従業員の休憩室に2階を開放してくれてる。


店長が経費の中からちゃんと払うと言ってるのに、

那珂井さんはがんとして受け取らない。


なので利用した人が気持ちを店長が準備した貯金箱に入れて使用させてもらっている。

基本ワンコイン100円。


那珂井さんはこれがいっぱいになったら豪遊しようねって言ってくれてて、

みんなそれが楽しみで、ちょっぴり多めに持ってる小銭をじゃらじゃら入れるから、

きっと開けてみたら一円とか十円とか小さいお金がいっぱい入ってる。


「詩信パティシエなんだな?」

「そうよ、って言っても見習いだけどね。

 一応専門出て社会人かな。」

「へえ、自立してんだ」

「まだまだだけどね。実家から通ってるし。」

しかし、まだ信じられない、陽君とさっきの美人が同じ人だなんて、

私はじっと陽君の顔を見る。