「あ、はい」

「そっかごめんね。

事務所今閉めてあるの。

人手が足りなくてね、

悪いんだけど、それ、

やっぱ本人に届けてくれない?

うちも連絡取れなくて困ってるのよ。

なんでも肺炎になりかけてたらしくて

一度知り合いから連絡入ってたんだけど、

それっきりで、

バイトでも戦力だったから人手が足りなくて、

だから事務員まで駆り出されちゃって迷惑なの。」



「ああ、ええと……」


「これ住所。個人情報だけど彼女ならいいわよね?」

「あ、はい」

差し出されたメモを受け取ろうとして、

手を出すと、一瞬かわされて、

「え?」

驚くと、


「ほんとに彼女?」

と、念を押された。

即答ができない私は不審に思われたみたいで、

そのメモは渡されることなくポケットに戻ってしまった。


「あの、本当です。本当に付き合ってます。

 その……今は一寸なんか会いにくい状態なんですけど」

最後の方がグダグダで、説得力無いなあ。



「ふはっ、冗談冗談!

 だってあなたしのちゃんでしょ?

 一目見て判ったもの。


 はい。これ住所。きっと彼女顔見たら熱も吹っ飛ぶわよ。


 頼んだね?しのちゃん!」



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「彼女か……」

私はさっき受け取ったメモと携帯電話をじっと見つめた。

彼女なんて胸を張って言えるほどの時間を過ごしてない。

まともに会えてないこの二日間。

私の気持ちは、ひどく揺らいで……


ピピッ

タイムリミットのタイマーの音。

あわててバックに携帯とメモを押しこんで走り出した。

仕事が終わったら、自力で届けるしかない。

その時私は……



「大丈夫、ちゃんと決めたんだから」

一人つぶやいて、走り出していた。