「チョコっていえばさ、うちの店に変な常連がいるんだ。」


ゴロちゃんはお姉ちゃんの作った夕食をパクパクと食べながら、


思い出したように話し始めた。


「名前しかわからない女の子を探してるんだってさ。」


「名前しか?」

「なんでも空からチョコレートが降ってきたんだって」


「ええ?」


「カラスが落としたものらしい」


「なあんだ」


「で、それに名前があって、

 多分本命チョコだろうって」


「まあ、それで、探してるんですか、親切な人ですね」


「いや、食っちまったこと詫びたいんだってさ」


「わび?」


「さっきも言っただろう?今日のチョコは男にとっては特別なものだって、

 そいつ食っちまってから、えらく反省しちゃったみたいなんだよ、

 誰かを思う大切な思いを、見ず知らずの男が食ってたら、

 その人はどんな気持ちがするだろうかって?」


「う~ん、なるほど、


 でもそれはあれですよね。


 逆に謝ってとか欲しくないですね。

 はっきり言ってそれ食べましたごめんなさいとか言われても、

 ……キモイです」


「キモってえ?しのちゃんそれひどくない?」


おねえちゃんはくすくす笑いながら、

ゴロちゃんにお茶を差し出す。


「これだから男は、当たり前でしょ?

 渡さず失くしたって事実だけでその先は意味がないのよ。

 失くしちゃったって思ってたものを、

 誰かが食べたとしても、それは意味がないの

男が思う以上に女はドライなの

 そうよねしのちゃん」


「うん……」



お姉ちゃんの言ってる事を聞いてるうちにわたしは3年前を思い出した。

渡せなかったチョコレート。


わたしのチョコを持ち去ったカラス。




まさかね?