「知ってるか、過呼吸じゃ死なないらしいぞ。

 だけど、

 死ぬんじゃないかって思うくらい苦しいらしい。

 かわいそうだよな、

 発作が起きるたびに死を感じるとか、

 地獄だろうな」


「死を……」


「どうした?」


「彼女も、小さいころから時々あって、今日発作が起きて、


 なのに笑顔で……


 苦しかったのに、


 自分より家族のこととか、俺のこととか気にして


 話をしてくれたのに、

 なのに俺は……」

ノムさんは俺の空いたグラスにドボドボと焼酎を流し込み、

飲め飲めと煽る。

俺がグラスに口をつけを傾けると、満足そうに笑った。

喉に強い刺激が走り、

脳天に雷が落ちたようだ。

ゲホゲホッと咳き込むと、

俺の背中を面白そうにバンバンと叩いた。


「悩め悩め若者の特権だ」


「アドバイスになってません」

息も切れ切れに抗議すると


「あはは、俺が若いころはめちゃくちゃやってたから、アドバイスなんてもんはできないな。


 ああ、でも、一言だけ言えるか。

 恋愛なんてのは相手がいてこそだ、

 それぞれいろんなもの抱えてるから面白い。

 だろ?

 がんばれよ青年!」


ダメだ、


意識がもうろうとする。


身体の力が抜けていく感覚の中で、


ノムさんの笑い声だけが妙に頭の中を乱反射していた。