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『ただいま、しーちゃんママいないの?』


高校から帰ってきた姉に、

10歳の私は唯ただ、泣くばかりだった。

その日私はママに捨てられた。

大きな荷物を持って玄関を出ていく母に、


『どこへ行くの』

と声をかけた。

ママは冷たい笑いを向けて、

こう言ったんだ。


『ママは今日から、ママじゃなくなりました。

 もうママって呼ばないで?

 しーちゃんには、

 パパとお姉ちゃんがいるでしょ。


 ママはも大切な人ののところに行くの。


 みんなには悪いけど、

 ママはこの家が大嫌いなの

 だからさよならしーちゃん』

『待ってママ、

 嫌だよママ

 しーちゃんのこと嫌いなの?』


くすくす笑いながら、

すごく怖い顔で言った。


『うん。ママはしーちゃんが一番大嫌い!


 しーちゃんが嫌いだからこの家も大嫌いなの。


 ごめんね大嫌いなしーちゃんバイバイ!』


振られた手のひらが光の加減で真っ黒に見えてとても怖かった。



真っ黒な大きな車に乗って行ってしまったママ。

嫌いという言葉だけがが10歳で理解できるすべてだった。


じぶんのせいで母親がどこかへ行ってしまった。

すべての責任はじぶんのせいなのだと、

そう言い残され、


それきりだ。


それきり二度と会うことは無かった。


けれどそのことは、

私の心に大きな大きな穴をあけた。

9年間、

家族に対しての罪悪感の中生きてきた。

父も姉も私を責めたりはしない。


それでも刻み込まれたあの冷たい母の瞳と言葉は決して私を許さない。


時々あの時に脱力感を思い出す。


息ができない感覚が私を襲う。


ひどくなると過呼吸症候群を伴う時もある。


けれど、悪いのは私だからそう言って一人で耐えていた。