「ケンカ売ってるの?」


「ごめんふざけ過ぎた。

 でもさ、打たれ強いってのはホントだよ。

 近所のおばさんとか、クラスの奴らとか、

 お前のこと言いたいこと言ってても、

 へらへら笑って受け流して、

 ぜってー泣かなくて。


 見てる俺の方が切れたこともあったろ?」


「ヘラヘラなんてしてないし」


ぷっと頬を膨らませて、

じろりと見る。


陽君は3軒先の幼馴染、

小学校まで、お姉ちゃんが班長で、陽君が副班長、

となりの家の優衣ちゃんと私。


一列に並んで歩く。


あの頃楽しかったなあ。


ママが家を出ていくあの日まで、

それはずっと続くのだと信じて疑わなかったのに。


あの日を境に、

私たちはお姉ちゃんと二人で通学することになった。


陽君も優衣ちゃんもおばさんたちが学校に訴えたから、

違う班に入ってしまった。


あんなにやさしかったおばさんたちが突然手のひらを返したように

私たちを排除した。


私たちは母親からも世間からも捨てられたのだ。

なぜ?って気持ちは子どもながらにあったけど、

ママが出て行ったとき、

ママに嫌いと言われた時にたくさん泣いたから、

ちょっと位辛いことなんてどうってことなかった。



あの頃思っていた。

私のせいでママは出て行った。

私が泣かないでがんばったらいつか帰ってきてくれる。



ヘラヘラなんてしてない。

でも絶対泣くのは嫌だった。

だから無理して笑ってただけだ。