「メルヘン王国はメルヘン王国だよ」



「日本なの?」



「メルヘン王国はメルヘン王国だよ」



「まさか異世界なんてわけないよね?」



「メルヘン王国は――」



「メルヘン王国なんだね。分かったもういい」



これ以上聞いても無駄。



壊れたラジオの再生ボタンをいつまでも未練ったらしく押し続けるほど、ぼくはクレイジーではない。



彼女…もう蕾でいいや。


蕾はどうみても日本人だけど、日本にこんな立派な城があっただろうか。



しかも西洋の城だ。



夢の国から飛び出してきたかのような。



まさしくメルヘン王国だ。



王国…王国?



「そうだ、まだ教えてなかったね。あんたを連れてきた理由」



「あ、うん」



再び歩きだし、ぼくはそれについていく。



長く薄暗い廊下に二人縦にならび歩き進める。



とても不思議な気分だった。



「姫さんを、助けてあげてほしいんだ」



「姫?」



「そう、姫さん」



そういえば、白い門をくぐる前に“王子さま”と呼ばれたような覚えがあるけど…まさかそのこと?



「北見千颯。あんたはたった一人の王子さまなんだよ」



赤い扉の前にたどり着くと、蕾は立ち止まり振り返って笑った。



張り付けたような営業スマイル。



「お姫様に、ご無礼のないように…ね」



それだけ言って扉を軽くノックした。



「連れてきましたよ、姫」



なにが起こるのか全く分からないこの状況に、ぼくの鼓動は段々速くなっていた。