彼女の足は、急に化粧室の前で止まった。



学生風に言えば女子トイレである。



なにをするのかと思えば、そのドアを指でなぞり出した。



彼女の指先が動くと、青紫の光がその後を追うかのように文字となる。



まるで、黒板にチョークに落書きしてるみたいにスラスラと。



ま…魔方陣!?



いつか見たアニメの主人公が、確かこれによく似た魔方陣を描いてた。



よく姉さんと一緒に真似したっけなぁ…。



でも、それとは比べ物にならないくらい、彼女のそれはクオリティーが高かった。



手描きとは思えないほど綺麗な円の中に、等間隔の美しい六芒星。



その回りにはよく読めない古代文字のようなマークがある。



この子、魔法使いなのかな。



もしかしたらぼくは夢を見ているのかもしれない。



でも、だとしたら、どこから夢だったんだろう。



「千颯!ボーッとしてないで後ろ来て!」



「は、はい!!」



渇を入れるかのような物凄く真剣で必死な声で名前を呼ばれ、つい情けないほど元気な返事をしてしまった。



ちょっと恥ずかしい。



でもどうやらそんなことを気にしている場合じゃないみたいだ。



完成されたらしい魔方陣から目を開けていられないほど強烈な青白い光が放たれ、彼女の後ろにまわったぼくまでその光に包まれる。



青白く照らされた彼女のこめかみから、一筋の汗が伝ったのが分かった。



その唇が微かに動くのでさえ、今はしっかりととらえる。



「いくよ?」



刹那――。



光が、全身を包んだ。