「まっ、待ってください!」



その時、後ろから声がした。



少し高めで、かといって耳障りな高音でもない。


やや控え目で、それでいてよく通る透明感のある声。



あの女の子が起きたんだ。



思わず振り返ってしまいそうになったけど、ハッとして固まった。



いくらタイミングがよかったからって、ぼくのこととは限らないだろう。


他の人を呼び止めたのかも知れない。



そこに誰がいるのか気になったけど、今確認するのはなんだかカッコ悪いような気がして、そのまま一歩を踏み出した。



「待ってってば!北見千颯(キタミチハヤ)!あんた北見千颯だろ!?」



その豹変ぶりに勢いよく振り返った。



確かに、北見千颯はぼくの名前で間違いない。



だけど……



「なんで、知ってるの?」



女の子は、白い歯を見せてニイッと笑った。



まるで、“見つけた”とでも言うみたいに。



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「だいたい君誰?なんでぼくの名前知ってるの?どこかで会ったことある?」



「千颯、質問は一個にしてくれないかな?一遍には答えられないよ」



シェイクをすすりながら、やや呆れた口調で言った。



突然の出来事に立ち尽くしていたぼくは、笑顔で腕を引っ張られ、そしてなぜかこのファーストフードの店につれて来られたのだ。



窓際のカウンター席からさきほどまでいた公園が見える。



ついでに言えば、彼女の手にあるイチゴ味のシェイクはぼくの奢りだ。