お姫様である彼女をこのままここに置き去りにしてしまっていいのか悩む。



だけど蕾が出ていったあと、開けられた扉が閉まりそうになると慌ててぼくは蕾を追いかけた。



“意気地無し”



たしかにぼくは意気地無しだ。



後ろに視線を感じたけど、顔を見ないようにして逃げた。



蕾を追いかけるふりをして、ぼくは逃げたんだ。



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「待って!蕾!」



すぐに歩いている蕾の背中を見つけて追いかけたけど、止まることなく距離は離れてく。



走って追いかけてやっと手の届く距離になったとき、ぼくたちは広く手入れの行き届いた庭にいた。



色とりどりのバラがたくさん植えられていて、喫茶店のテラス席を思わせる白いイスとテーブルがある。



そこで蕾はやっと振り返ってくれた。



「姫さんがあれだからさ。あんた、どうする?」



ひどく疲れきった顔で、投げたような聞き方。



疲れてるのは蕾だけじゃないんだ。



ぼくだって散々振り回されて疲れてるのに。



「ぼくが王子ってどういうこと?」



「わかった。お茶を淹れてくるからそこで座って待ってて?」



蕾がぼくにお茶を?



あ、そっか召使なんだからそれくらいできるよね。



「別にいいよ、気を使わなくて」



「こっちが喉かわいたんだよ!」



…蕾がぼくに気を使ってくれるわけがない。



分かってはいたさ。