「誰だ。お前」
少年は訝しそうにアランを見る。
「私はアランだ。ここの研究員でね。君は誰かね」
「オレ、オレは…」
何でだ。オレの名前。思い出せない。オレは一体。
少年は頭を抱えて膝を折った。すると「うっ」という声とともに意識を失い、ユイの姿に戻ってしまった。
「…惜しいことをしたな。しかし興味深い。全く別の人格になるとは。ヤキマ氏の報告書にはなかったはずだが…」
元の姿に戻ったユイを見、少し考えてアランはユイを抱き抱え、ソファーに横たえた。



「うっ。私どうしたんだろ。いきなり頭が痛くなって、それから…」
半分ボーっとしている頭を押さえながら、記憶の糸を辿る。だが肝心なところが思い出せない。
「お目覚めか?」
何が起こったのか思い出そうとしているとアランが部屋に入ってきた。
「さっきのが分化の前兆だ。とても興味深いものを見させてもらった。これを見ろ」
アランは1枚の写真を渡した。
「何これ。誰?」
「それは君が分化、と言うより変化した姿だ」
「えっ。だってこれ男の子じゃない」
ユイにしては骨格がしっかりしている写真に写った人物はどこからどう見ても男の子だった。
「そうだ。我々の研究では両性体は一体の内に2つの性が融合したものが完全体と報告されている。が、君は異性体、少年に変化した」
アランは性はもとより骨格、性格まで変わることはあり得ないと言う。そんな報告は今までに例がなく不可能だとされていた。しかしその不可能をユイが可能にした。
「一体ヤキマ氏はどんな薬を君に投与したんだ」
そんなことを聞かれてもユイには眠っていたのだから解るはずもない。
「知らないわ」
そんなのこっちが聞きたいぐらいだ。ユイはぶっきらぼうに言った。
「まあいい。そんなこと検査すればわかることだ。それより腹が減っただろう。食事をしに行くぞ」
そう言われて初めてお腹が空いていることに気付いた。時計を見ると19時を過ぎていた。アランはユイの返事を待たずに、既に部屋を出ようとしていた。ユイは遅れないよう、小走りで後をついて行った。