ヤキマの話によるとユイは16歳にならないと分化せず、両性体にはならないという。ヤキマはユイの成長が13歳で止まったことからその成長に合わせて、3年の猶予を与えていたのだ。両性体になりたくなければ16歳までに薬を投与すれば分化せず、ユイは女性のまま成長するという。
「16歳になる前に分化の兆しが何度かあると思う。しかし16歳にならなければ完全体にはならない。ユイ、お前の人生だ。好きなように生きろ。ユイ。お前には…ジジッ。ブツッ」
そこで映像は途切れてしまった。
パパは最後に何を言いたかったんだろう。でも16歳まで両性体にはならないんだ。薬を投与すれば私、女の子でいられるんだ。
ユイは薬のビンを手に持った。その色は淡い水色をしていた。
しばらくの間ユイは薬を見つめていたが、急に頭が締め付けられる感じがした。
「い、痛っ…」
何これ。頭痛い。それに身体も熱くなってきた。何で?誰か助けて…。
「ア、ア…ラン。た…すけて…」
急な身体の変調にどうしていいのかわからず床にうずくまり、アランに助けを求めた。
「どうした。何があった!これは…」
連絡を受け、間もなくアランが部屋に入ってきてユイに声をかけた。が、倒れ込んだユイを見て、その姿に言葉を失った。
そこにいるのはユイなのだが、ユイであってユイではなかった。数秒ごとに少女であったり少年であったりと変化していくそれは、分化の前兆であった。しかし初めて体験するユイにとっては、状況を理解できず、ただじっと頭痛が治まるのを堪えるしかなかった。
アランは、といえばユイが助けを求めてもじっと動かず、何かを待っているようだった。
ユイが苦しみだしてから数分後、頭痛が治まり変化が止まった。
「うっ…」
ユイは苦しみから開放され、呻き声を上げた。しかしその声は少年の声色をしていた。
そう。ユイは今、少年の姿に変化していた。
「いってぇ。何だったんだよ今のは」
少年は頭を押さえながら呟いた。その言葉使いにユイの人格の欠片はどこにもない。どこからどう見ても少年にしか見えない。
「ほぉ。素晴らしい。別の人格がでるとは今までの報告にはなかったな。詳しく検査してみる価値がありそうだ」
アランは興味深そうに少年を見て言った。口元には笑みがこぼれている。