何、この人。見たことない。それに管理人って…。
「な…に、言ってるの?ここはどこ?あなた誰?パ…パ。パパはどこ?」
そうだ。パパはどこ?ここが研究所ならパパがいるはず。
ユイはパニックに陥りながらも、自分がどういう状況にいるのかをはっきりするため、アランと名乗る青年に質問する。
「君の父親の名前は?」
アランは真面目な顔をしてユイに尋ねる。
何この人。パパの名前も知らないの?研究所の人ならパパの名前知らないはずないのに。新人なのかな?まさか私、違う研究所に連れてこられた?
そんな考えがグルグル頭を回っていたが、まずは質問に答えるのが先決だと思い、ユイはパパの名前を言った。
「私のパパはヤキマよ。ヤキマ・リンゼイ。私はその娘ユイ・リンゼイ」
その名前を聞いてアランは少し考え込んでいたが、窓の前に立ち、手に持っていたリモコンのスイッチを押した。
「まずこれを見ろ」
そう言われて窓を見ると、風景が映し出された。しかしその風景は、ユイが慣れ親しんだものではなかった。緑豊かな土地はなくなり、ビルがひしめき合ってその奥には砂漠が広がっていた。
「ここは君の元いた世界じゃない。現在2321年。君が眠りについてから300年以上経っている。もちろん君の父ヤキマ・リンゼイ氏は300年も前に亡くなっている」
「なっ…!」
パパが死んで…。300年前ってどういうこと。私が眠りについたって…。
「ヤキマ氏が両性体の研究を始めた頃、世界を揺るがす大事件が起こった。それが第3次世界大戦だ」
その後、ユイは強力な放射能を浴び、意識不明。染色体に異常をきたし、眠りについたという。その5年後、父ヤキマは両性体の薬を完成させユイに投与し、ユイの目覚めを見ることもなく、研究を部下達に引き継ぐと間もなく息を引き取ったという。
「そんな話、信じられないわ」
「信じられなくともこれが真実だ。これから君はここで研究の手伝いをしてもらう」
半信半疑のユイにアランはお構いなしに2つのファイルと服を渡した。ファイルの1つは父ヤキマに関する報告書、もう1つは両性体の研究についてのものだった。服は研究所内を動き回るためのもので、今着ている病衣服でもいいような気はしたが、あって困るものでもないのでありがたく頂いた。