「伝言?」
ユイは何を伝えられたのかと緊張して次の言葉を待った。
「生きろって」
「えっ」
「どんなことがあっても生きろって。お前達はもう自由なんだから好きなことをしてこれから生きていけって」
今まで研究所だけで生きていたから外でどんなことが起こるかわからない。だけどそれでもめげずに強く生きていけとヤキマは言ったのだ。
「2人なら何とかなるって。ユイだけじゃちょっと心配だけどオレがいるし」
「何それ。まるで私が何もできないようじゃん」
「本当のことだろ?」
そして2人同時に吹き出した。こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。
とても爽やかな風が頬を撫でていく。
研究所を後にしてすぐの丘から研究所跡を見つめながらライが言う。
「オレ、親父のこと嫌いだった。オレはお袋といろんな土地を転々として苦しんでいるのに、親父は研究所でのほほんと暮らしているなんて許せなかった」
パパと一緒に暮らしていた私も嫌いだったの?とユイが尋ねると「ちょっとな」という返事が返ってきた。
「でもずっとオレ達のこと心配してたんだって。お袋が死んだ時、オレを迷わず引き取ってくれて、オレ忘れられてなかったんだってわかって嬉しかった」
それから研究所で暮らすようになってユイの事を陰からこっそり見たり、ヤキマからユイの話を聞いてずっと会いたかったと話した。
「すげぇ可愛くってさ。仕種とか話し方とか。それまで持ってた感情が吹っ飛んだ。オレが守ってやんねぇと、とか思っちゃってさ」
恥ずかしそうに頭を掻きながら言う。
「っと。これからどうすっかなー」
研究所もなくなっちまったし、と、ライは呟く。
「そうだね。でもいろんなとこ行っていろんなもの見たい。ライは研究所に来るまでいろんなとこ見てきたんでしょ?でも私、研究所から出たことないからわからないことだらけだし」
ユイさ今まで出られなかった分をこれから取り戻そうというように、ライに提案した。
「そうだな。昔とはずいぶん変わっているだろうけどオレが行ったとこ案内してやるよ。いろんなこと見て学ぶことがユイには必要だろ」
そう言って2人は新たな道を歩き出した。自分を大きくしてくれるであろう、これからの出来事に胸を膨らませながら。

そんな2人の門出を歓迎するかのように爽やかな風が2人を包んでいた――。