指を離したあとに少しだけ照れくさそうにするふたつの頬
「んねぇ..あれ!」
5歳児なりの照れ隠しは少し先の桜の木を指差した
「..??」
「あたしねあの桜の木がいちばん好き!」
「なんで?」
「いちばんおおきくてふわふわで..きれーだから!!」
「そっか..そっか!
あの桜の木はきれー?」
「うん!とってもきれー!!」
あたしがあの桜の木を“きれー”と言うと
ハルキがとても嬉しそうにするから
あたしはハルキと桜を見る春が大好きになったんだ
「あの桜の木はね、ソメイヨシノって言うんだよ!」
「へぇー!ハルキは物知りだね!」
「えへへそうかなぁ」
「そうだよ~」
「えへっふーか大好き!」
「あたしもハルキ大好き!」
にひひっ、と無邪気に笑う幼いふたり
あの頃はあたしたちのこれからの
運命も
偶然も
必然も
悲劇も
喜びも
大好きも
なんにも分かっていなかったんだ
わかっていたのはあたしの大好きなあの桜の木が
“ソメイヨシノ”
って種類だってことだけだった