彼女は顔を崩して笑う。

「気を遣ってくれてありがとう」

 自分で何度も聞いて、それか。

 頭が痛くなってきた。

「もっと早く見せてくれれば、それでよかったのに。

こっちには箸を入れてしまったから」

 さすがに自分が食べたものをほぼ見ず知らずの女に食べさせるのはどうかと思うから。

「そしたら、明日はちゃんと自分で作ってくるから、食べてくれる?」

「分かった」

「ありがとう」

 彼女はまた笑っていた。

 何でそんなに笑うのだろうと不思議に思うほど。

 それもお世辞でも綺麗な笑い方とは言えない。

 でも、彼女の気持ちを如実に表しているような笑みだ。

「嫌いな食べ物ってあるの?」

「好き嫌いはないよ」

「アレルギーとかは?」

「ない」

 そこまで聞いてくるってことは意外としっかりしているのかもしれない。

「分かった。明日はもう少し上手に作ってくるから期待してね」

 さっきの泣きそうな顔など一気に消し飛んでいた。