「わたしはそんな綺麗な人間じゃないよ」

 小さく、消え入りそうな声だった。

 彼女から目を離すと、消えてしまうのではないか。そんな錯覚さえ覚えてしまう。

「そんなことないよ」

 先輩がそうなら僕はもっと論外だろう。

 そんな言葉を口にするのもはばかられるほどに。

 彼女は目を細めると、白い指先を僕の頬に這わせた。

 いつもと変わらないあたたかい手だった。

 だからこそ、瞳とのギャップがよけいに僕の心を悲しい気持ちにさせた。

「久司君はすごく純粋な人だと思うよ。だから、自分を責めないで」

「何も言ってないよ」

 茉莉は目を細めていた。けれど、その奥に覗く瞳は先ほどの自らを虐げた言葉を発したときの瞳に似ていた。

 その瞳が僕の心を切なくしていった。

「見ていたら分かる。今は自分を責めている顔をしていた。あなたは優しい人だと思うよ。きっとわたしの何倍も」

「そんなことないよ」

 彼女と僕なんか比較対照になるわけもない。