彼女は腕を引っ張り、家の裏まで僕を導く。

 緑の合間にひっそりと隠れるように白い花が静かに花開いていた。

 純白で穢れを知らないかのように、優しい花。

 その姿は密やかであったが、凛としていて、独特の雰囲気を放っていた。

「はじめてみた?」

 僕はうなずく。

 先ほど鼻腔を刺激した甘い匂いが届く。

 お茶として飲んだときのような不快感は全くない。

 そのとき、皮膚の表面を流すような風が僕の肌に触れた。

 その風に同調するかのように花も揺れる。

 風がやみ、花の動きがとまる。

 それを待っていたかのように、茉莉の穏やかな声が届いた。

「綺麗な花でしょう?」

「そうだね。お茶のときとは全然印象が違う」

 それは僕の素直な気持ちだった。

 その花を見ていると、にぎやかで変わった彼女と、優しく包み込んでいる彼女を見たような気がしてくる。

 ただ、その花と違うのは、どんな彼女を見ても不快感は覚えなかったことだ。