「私は大丈夫、さ、帰ろっか!」
くよくよしていたって仕方がない。
それに、お母さんも私のためにがんばってくれているのに、私だけ落ち込んでいられない。
そう思い私が言うと、
「何かあったら言ってね」
「ああ、すぐ飛んで行くからな」
佳織と彼方がそう言ってくれる。
本当に佳織と彼方がいて良かったと思う。
________そして、その日は
2人と別れて直ぐに家に帰った。
「ただいまー」
「おかえり、舞、悪いんだけど買い物行ってくれる?」
「分かった」
お母さんにはあまり負担かけたくないから、買い物はいつも私の仕事。
だけど、その日はなぜか少し憂鬱だった。
さっき昔の事を少し思い出してしまったからかな…
そして、
買い物が終わり帰ろうとした時、
「ハァ、ハァ…」
やばい、まただ…
過呼吸。
過呼吸には慣れてしまった。
息をしたいのに、体はそれに反して言うことを聞いてくれない。
もどかしい…
私はその場にしゃがみ、紙袋で口を押さえ、呼吸を整えていた。
最近は来なかったのに…
「大丈夫か?」
すると、同い年くらいの男の人が声をかけてきた。
私は息が途切れそうになりながらもその人に答えた。
「ただの…過呼吸…」
「救急車呼ぶか?」
「ハァ、ハァ…大丈夫…」
その男の人は私が落ち着くまで、そばにいてくれた。
「すみません、ありがとうございます…」
「もう、大丈夫なのか?」
「はい…慣れてるんで」
「大変だな…」
そう男の人は言ってくれた。
「本当にすみません…」
「いや、そうだ、お前桜木高校?」
えっ…
何で知ってるんだろう…
「はい…そうですけど…」
「だよな、さっき教室で見た気がする、こう見えて俺顔覚えるのはえーんだ。」
「は、はぁ…」
「1-A 12番 櫻井 浩哉(サクライ ヒロヤ)。宜しく!」
そう言って貴方は笑った。
両頬に出来る笑窪(えくぼ)が、どことなく懐かしく感じられた。
"ピーーーー。"
どこかで、
ホイッスルが鳴ったような気がした。
それが貴方との出会いでした。
______________
__________
_____
それから次の日
教室へ入ると、
「あ、昨日の、大丈夫?」
櫻井くんから話しかけられた。
こうして見ると相当格好いいなあ…
フワッとして少し茶色がかった髪の毛、
スラリと伸びる高い背、
人を惹きつけるような目、
もてるんだろうな。
「櫻井くん…だよね…昨日はごめんなさい…」
「浩哉でいいよ、俺も舞って呼ぶから、あと昨日の事は気にするな」
浩哉…呼べるかな……
「あ、わかった。浩哉…ね…」
「おう、じゃあ授業始まるからまた」
"キーンコーンカーンコーン"
それと同時に始業のチャイムが鳴った。
早速友達が出来たかな、
それくらいの気持ちだったんだ。
この時までは________
そして、1日の授業が終わり、佳織と彼方と3人で帰ろうとした時に、
「舞、この後空いてるか?皆でカラオケ行かねえ?」
浩哉からだった。
「どうしよう…佳織達行く?」
「私はいいよ」
「俺も」
「佳織と彼方もいい?」
「おう、もちろん」
「じゃ、行こっか」
そう言って
皆でカラオケまでの道を歩いているとき、
隣で歩いている佳織が、
「いつのまに櫻井くんと仲良くなったの?」
と、好奇心を見せながら聞いてきた。
「いつって…昨日、かな」
「凄くない?!しかも浩哉って呼んでるの?」
「…そうだけど、何で凄いの…?」
そう言うと、佳織は目を丸くした。
私、何か間違ったこと言ったかな?
「舞、知らないの…?」
「…え、何を……?」
「櫻井くん、凄くもてるのよ。皆狙ってるんだから!」
「えっ!そうなの?」
そうなんだ…
まあ、格好良いからね。
予想はしてたけど…
「舞は鈍いんだから」
私が、鈍い…?
そんなこと1ミリも思ったことなかった。