嘘、ついた。

先生、普段から美術準備室で絵描いてるくせに。そのせいで色んなところに絵の具が付いてるくせに。

何で嘘なんてつくの。

心の中でそう思ったときだった。

先生の視線がこっちに向けられて、遠いけどしっかり視線が絡んだ。


「っ…」

慌てて先生から目を反らして、カバンを持って立ち上がる。

中村さんが言ってた時間より大分早いけど、ここに残るなんて無理。

残っていた荷物を無理矢理カバンの中に詰め込んで教室を出ようとする。


「意外だなー、美術の先生だからいつも描いてるのかと思った」

だから、先生は描いてるんだって。

「ほんとに描きたいものしか描かないことにしてるから。それに、見てもらいたい人がいるときだけ。」


見てもらいたい人。

先生、今描いてるあの絵は誰に見せるための絵なんですか?