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“もっとキレが欲しい”
「わかった、じゃあBメロからもう一回」

その声で私達は再びポジションにつく。

あれから1ヶ月が過ぎた。

毎年出てた年末年始の歌番組にはもちろん出ず、
私と杏奈はずっと二人で過ごしていた。

そして、また更に絆が深まった気がする。

それは、ただ仲がいいだけじゃなくて、
何でも言える仲になったってこと。

年が変わって私達は徹底的にダンスに力を入れた。

私の体を戻すのと、これからの技術向上。

こういう努力のおかげか社長との溝も良くなって、
私が完全復帰した時に
アルバムと全国ツアーも決定された。

でも何でだろう……

確実に前に進んでいるのに、
最近は私の具合が異常なくらい悪い。

ほら、今だって……

私はそのまま躍りながら倒れ込む。

「実彩!!」

私を支えるように杏奈が駆けつける。

「実彩、気持ち悪い?」

そう、私はここ2週間程
何もしてないのに気持ち悪くなる。

これでもう、トイレに駆け込んだのは何回目だろう。

もしかして、と思って
妊娠検査薬を使って調べたんだけど、
毎月ちゃんと生理が来ていた私は
特に異常もなかった。

この原因不明なものはなんだろう。

そんなことに悩まされながら
私はトイレを後にする。

トイレから戻ってくると杏奈が
私に水を差し出してきた。

“ありがとう”

きっと上手く笑えていない笑顔で受け取ると
杏奈はそっと微笑んで私の背中をさすってくれた。

「実彩、病院行った?」

首を振ってホワイトボードに字を書き込む。

“病院に行っても特に原因はないって言われるから”
「でも、念のため行っておいたほうが
いいんじゃない?」
“大丈夫、自分が壊れる時はわかるから。
そうなったら、ちゃんと病院行く”
「そっか、でも無理だけはしないでね?」

私はそのまま頷いた。

杏奈が何かを気にしていることなんて知らずに。