_______

「みーちゃん」

いつの間にか杏奈と秀がいなくなっていて、
ここには私達二人だけが残った。

ゆっくり顔をあげるとゆかりんは一層深く笑った。

「ほら、みーちゃんも笑って?」

昔と変わらない優しさに私も思わず笑顔になる。

「みーちゃん、
私パパに教えてもらったことがあるの」

ゆかりんの顔を見ると
どこか懐かしそうに遠くを見ていた。

「つらい時こそ笑いなさい。
そして、人の幸せを願いなさいって」

その言葉に胸が高鳴った。

何か、私に伝えたいことがすぐ頭に入ってきた。

「だから、私は今こうしていられるの。
つらい時、無理して笑ったし、
秀や家族の幸せを必死で願った。
だからこそ、この小さな命を授かったんだと思う」

ゆかりんはそっと大きなお腹に手を当てた。

「ここに手を当てるだけで、実感するの。
ものすごく足でお腹を蹴っているのも、
あぁ、今私の考えてることわかるのかなーとか。
何か、繋がっているのがわかるの」

柔らかい表情でお腹を見つめるゆかりんに
私は思わず写真を取りたくなる。

無性に温かいもので包み込みたくなる。

「みーちゃんの痛みや苦しさは、
今の私にはわかることは出来ないと思う。
けど、何か変えようという思いがあるなら、
必ず未来は今よりよくなっているはず」

しっさり目を言い切ったゆかりんが
とても勇ましく見えた。

「みーちゃんの大好きな声が出なくて
絶望に落ちる程、苦しいよね?
隆とあんな別れ方したら、後悔は残るよね?
けどね、その二つの大きな出来事は
みーちゃんを変えさせてくれるサイレンなの」

……え?

「みーちゃんを前に向けてくれる
大切な役割をしているの。
だからね、このチャンスを無駄にしちゃダメだよ?
何があっても必ず、前を向いて進み続けるの。
それが、みーちゃんの未来を明るくさせる近道よ」

その心強いメッセージに胸が打たれて
私は何度も頷きながら涙を流していた。

「ほら、わかったならすぐ実行する!!」

へ?

ゆかりんの放った言葉を理解出来なくて
首を傾げる。

「前向くんだったら、そろそろ仕事始めないと。
ダンスだって出来るようになるんだし、
歌詞書き溜めて
もっといい曲にする為に編集するとか、
声が出なくたって、
やるべきことは沢山あるんだから」

そしてゆかりんは私の背中を力強く叩いた。

そして私達はそのまま満面の笑みで笑った。

ゆかりんにはかなわないや……

だって、ゆかりんは
私の永遠のマネージャーなんだから。