「あたし、小学4年生からお兄ちゃんに護身術とか教わってたんだ」
「護身術?」
「うん」
あたしがそう頷くと、坂城君はへぇ、という顔をした。
「お兄ちゃん、空手とかやってたもんで。いろいろと、動作が…こう…シュババッとしてるんだよね。そんで、強くなりたいって言ったら、教えてくれたの。いろいろ」
「…へぇ、意外」
「意外って何、意外って。」
「…俺の中の神澤のイメージって、オドオドしてていつも泣きそうな顔してた感じだったから」
坂城君の言葉に、ああ…と昔の自分を思い出した。
確かに、そんな感じだったと思う。
「なんで強くなりたいってなったわけ?」
「え?だって今度あんな目にあった時とかに対抗できるようになりたかったし…」
…坂城君みたいに、人を助けるための強さが欲しかったから。
という言葉は、飲みこんだ。
なんか、調子のりそうだったから。
「…だから大丈夫だよ?危なくなんてないし。そーゆーのがきたら、シュバババッて倒しちゃうもんねーだ」
そう言って坂城君に勝ち誇ったような顔をすると、ムスッとした顔をされた。
坂城君の顔を合図にしたように、雨が強く降ってきた。
「かわいくねぇ女」
「なっ!?ど、どうせあたしは可愛くなんてないよ」
あたしの怒りを合図に、また強く雨が降る。
「…弱いなら弱いなりに黙って守られてればいいんだよ。無理に強く…ならなくても…」
「…へ?」
坂城君の声が雨と重なって微かに聞こえた。
「……なんだよその顔」
またしても間抜けな顔をしてしまったあたしを見て、坂城君は呆れた顔をした。
「ご、ごめん。雨で聞き取れなかった…もう一回」
「絶対嫌」
坂城君はバーカ、と言ってそれ以降、口を開かなかった。
必要のないガードマンは、ただそっぽ向いて歩いた。
あたしはその横と、ついていくように歩いた。
耳に入ってくるのは、雨が傘を打つ音だけだった。