「何驚いてんだよ、当たり前だろ。俺にとって大切なのは、チーコロなんだよ!」
「なっ…、なによ…。なにそれ、あたしの価値…チーコロだけ!?ていうか、それはもうあたしの価値じゃないじゃん!」
俺にとって大切なのは、チーコロなんだよ!
その言葉で、あたしが全否定された気がして悔しい。
「坂城君の、…坂城君のバカ!!」
「はっ、はぁ!?」
そう言い残すと、あたしは傘を出て走った。
「ちょっ、待て神澤!!」
走ったはいいものの、あたしより足の速い坂城君にはすぐ追いつかれてしまった。
「バカ、バカバカバカバカバーカ!!」
腕を掴まれて逃げられなくなると、言葉だけでもと口からバカがあふれ出してくる。
「ちっ、めんどくせぇなお前」
「なにがめんどくさいのっ、坂城君だって充分めんどくさいわ!!ていうかもうやだ、腕離してよバカ坂城!!」
「…おい、お前いい加減にしろよ」
坂城君のその言葉に、思わずぴたっ、と止まる。
やばい、キレたな。って思った。
「ご…、ごめん、なさい……」
小さな声で、そう謝る。
すると坂城君は、ゆっくり口を開いて言った。
「…これは絶対だからな、逆らうなよ」
ああ、なにかされるな…そう思って、顔を伏せたときだった。
「家に帰るまで、絶対この傘から出るな」
「………へ?」
「何間抜けな声出してんだよ、…絶対だ」
「…はっ、はい」
結局あたしは、この傘の中に入る事になった。
坂城君は別にあたしに傘を貸す、という意味でもなく隣に当然という顔をして入っている。
あたしはやっぱり、坂城君と帰る事になったのだ。
…若干涙目になったのは、雨がうまく隠してくれたようだった。