「遅ぇ」


「ご、ごめん」


帰りの会が終わった後、川井先生に呼びとめられてしまったあたしはそれから5分後に自習室についた。


自習室のドアを開けると、坂城君は奥の机で机にだるーんと伸びていた。


そしてあたしを見つけるなり、ぎろっとした目で「遅ぇ」と呟くのだ。


なんだよ、寝てたくせに…。


かふ、と小さなあくびをして右目を擦る坂城君を見て、そう思う。


だけどその動作がすこし、猫みたいで可愛くて「まぁ、許そう」とか思ってしまう。


ちなみに本物の猫は苦手だ。


ていうか、なんで奥の机…?とか思いながら歩き、坂城君のいる机まで辿りつく。


「ほーら、早くやろうぜ、センセ」


ぱしぱし、と机を手のひらで叩きながらそういう坂城君。


…なんか、坂城君が、違う。


「ぎろっ」も、「ぱしぱし」も、なんだか平仮名表記したくなる。


やっぱり、命令する王様って感じじゃないのかな、勉強教えて貰う立場となると…。


…そんな坂城君は慣れないから、いつものままでいいのに…とか思ってしまう。