「え?何?そんで、教えることになっちゃったの?」


ユカが椅子の背もたれに肘を置き、その先を重力に逆らわずだらんとさせながら控えめな驚きの顔をした。


「うん、なんかそうなっちゃって…ごめん、ユカ」


昼休み、あたしはユカにさっきの事を話していた。


「いいよいいよ、別に。亜稀から誘って二股したんじゃないんだから」


今日はユカと軽く買い物する予定だったのだ。


昨日ユカから言われたのだから、別に今日の坂城君との勉強の方が断るべきだけど…。


今日の坂城君は、あたしに命令した感じじゃなかった。


なんというか……、頼ってきた、感じ?


思わず、「…はい」と答えてしまったのだ。


「そのかわり、テスト終わったら一緒に買い物行ってね」


そう言ってにこっと笑ったユカに、思わず笑い返す。


「じゃぁ、今日は自習室で一緒に勉強って事かぁ」


ユカの言葉に、うんと頷く。


「……この前までだったらあたし、たぶんきゃーって言ってたよ」


「………あー…、うん」


「なにそのラブコメ的状況!って千春みたいになってたと思う」


そう。あの春までだったらユカは、あたしと坂城君の事を冷やかすようにそう言ったと思う。


まぁ、実際来たことでずいぶんと戸惑った事もあるし、今の坂城君はあんな感じになってしまったから、今はもうユカにとって坂城君は気にいらない存在のようだ。


「…今千春いたら、たぶん一緒に来るね、あの子」


「あー…だろうねぇ」


千春は最近、坂城君へのラブコールがだいぶ強くなってきている。


聞くと、「え?違うよぉ、好きとかそんなんじゃなくてぇ…かっこいいなぁって、言ってるだけだよ」ところころ笑う。


だけど、それが本当なのかはわからない。


だって実際、この事言ったら「いいなぁ亜稀ちゃんずるーい!ねぇ、あたしも参加しちゃダメ?」って首をかしげると思う。


まぁ今、千春は女子テニス部のミーティングでいないのだけど。


「ま、頑張ってきな…いろいろと」


「うん…いろいろとね」


結局その話は、そんな感じでおさまった。