ふと気がつくと、アキラは風呂に沈んでいた。

「ぐげェェッ! 」

奇声を発しながら浴槽の底を蹴りとばし、上半身を水中からひきずりだした。

荒い息を整え、深呼吸を繰り返す。

「ぶえッぐし!」

盛大なくしゃみが出た。

身体は芯まで冷え切っていた。

どうやら風呂の中で眠ってしまい、そのまま朝を迎えてしまったようだ。

アキラはぞっとした。

お湯はすっかり水に変わっている。

おそらく数時間は水風呂に浸かっていたことになる。

「寒い…」

アキラはがたがた震えながら浴室を出た。

夏ならまだしも、今は真冬だ。

気温は余裕で氷点下を下回る。

生きているのが不思議なくらいだ。



浴室を出るとそこは脱衣所 兼 洗面所になっている。

アキラはかじかんだ手でバスタオルを身体に巻きつけた。

そこで力が抜けた。身体が重い。

むしろ凍死寸前の条件にあって、今まで身体を動かせたのが奇跡だ。

救急車を呼ぼうか迷ったが、電話までの移動ができない。

そこでアキラは、冷え切った身体を心臓がフル稼働してあたためるまで、しゃがみこんでじっと待つことにした。


そのとき



何の前触れもなく、脱衣所の引き戸が開いた。