パタパタと、どこからか足音が聞こえる。

「あれ?

山吹センセーどこ行ったのー?」

「この辺にいたと思ったんだけどなあ…」

その声と足音が遠くなる。

遠くなったことを待っていたと言うように、先生が唇を離した。

「やれやれ、やっとどっか行ってくれた」

先生は呆れたように息を吐いた。

「せ…先…」

呼ぼうとしたあたしの唇に、トンと人差し指が当たった。

「“勇吾”、でしょ?

忘れたなんて言わせないから」

そう言って、先生はとろけるような甘い笑顔を見せた。