■ Get angry





見上げれば、空一面に広がる数々の星。
見下ろせば、色鮮やかに煌めかせている夜景。

ここは街から少し離れた場所にある森林公園。
その駐車場から眺める夜景は有名だからなのか、夜にも係わらずカップルばかりで賑わっていた。

そんなシチュエーションの中、私は胸をドキドキとさせながら、隣に座る彼をチラチラと盗み見る。

付き合ってもう3年にもなるというのに、こんなにソワソワと落ち着かない気持ちになるのには、訳があった。

平日の仕事帰り。

『どうしても、今日話したい事があるんだ』

今日は、私達が付き合い始めた記念日。

車から降りる時に見えてしまった小さな箱。

それは、私が心待ちにしていた…
【彼からのプロポーズ】
それを意識するには十分過ぎたんだ。




変な緊張感を抱えながら、私はただ彼に寄り添いその言葉を待つ。


「あのさ…?俺達、これからもずっと…一緒にいると思うんだ。」


彼も緊張しているのか、言葉が途切れ途切れになってしまっていたけれど、私はそれすらも嬉しくて隣でゆっくり頷いてみせた。


「お互いに、隠し事とかしない様にしような…?」


「あはっ。私が嘘をつけない人間だって知ってるでしょ?今更、隠し事なんてないよ?これからも。」


「ハハッ。確かにそうだな。…今更って言えば、今更だけど…その…今まで何人と付き合った事ある?」


「な、何?…そんな事、今まで聞いてこなかったじゃない?どうしたの?」


「んー?いや…なんとなく?」




「答えるのが嫌なわけじゃないけど、それこそ今更じゃない?知る必要ないと思う。」


私がそう言葉を返しても、彼は話題を変えようとはしない。
もしかしたら、プロポーズする前に不安になっちゃったのかな?とか、思ったりもした。


だけど、突然そんな質問を投げ掛けられて、私はどう答えるべきか悩んでしまった。

正直に答えるべきか。
嘘をつくべきか。

本当は嘘をつこうと思ったんだ。
だけど、私と彼は元々共通の友達もいたし、嘘をついてもいずれバレてしまう。

プロポーズされるかもしれない状況で、嘘をつくのも気が引けてしまった気持ちもあったのかもしれない。

それなら、ここは正直に言うべきだ。
そう心に決めた私は、本当の人数を口にした。





「…5人だよ?」


5人とは言っても、1ヶ月とか3ヶ月とかで別れた人もいたから正確かどうかは分からない。

そう、思った事を付け足して言葉にしようと彼の方に体を向けた時。
彼が、うつ向きながら両膝の上できつく握り拳をつくっているのに気が付いた。

拳がフルフルと震えているのを見れば、彼の顔色を窺わなくても怒っているのは一目瞭然で、私はどうしていいかも分からず、彼の次の言葉を待つ事しか出来なかった。

怒りを露にしている人を目の前にして萎縮していた私に、今までの彼からは想像も出来ない言葉を吐いたんだ。


「俺が初めての相手じゃなかったんだ…?
どんだけ汚れてるの…?」





彼の発した言葉が信じられなくて、私は呆然と彼を見つめることしかできなかった。

彼は私に向かって次から次へと、鋭利な刃物と化した言葉を吐き出していく。

『何で、もっと自分を大切にしないんだ?』

『俺と出会う前は淫乱だったわけ…?』

『君は…罪を償わなきゃいけない…』

『一生、悔いなきゃ駄目だ』




何、それ…?


たかが、付き合った人の人数を言っただけで、
何で私がそんな事を言われないとならないの?

過去があっての、今の私なのに
それを、全否定するんだ?

淫乱…?アハッ…

大切にしてたよ?

好きな人とシただけなのに…

何で悔いないといけないの?
何で償わないといけないの?
誰に償わないといけないの?


…あなたに?

…一生をかけて?





彼はそこまで言い終えると、上着のポケットから小さな箱を取り出した。

その淡いブルーの箱を開き、私の方に向かってその中身を見せた。

煌めくそれは、4月生まれの私の誕生石。
華奢なループの頂に光り輝いている。

それを見た後、彼に視線を戻すと、彼は何故か微笑んでいて…



「俺が、許してあげるよ。…だから、俺達、結婚しよう。」









プツンッ…














「バァーーーーカッ!!してたまるかっ!!!!」