「今更だけど名前聞いていい？」

「あっ。。。矢崎凛です」


「凛ちゃん。何か隠してる？？」



ﾏｷの少し低めの声は本当に怖い。その迫力に負けた凛ちゃんは目を逸らしながら小さい声で話しだした。



「いゃ。。別に大した事じゃないんですけど。。。ｸﾗﾌﾞで陸くんが元ｶﾉといるところ最近よく見るんで。。」



凛ちゃんの話を聞きながらｱﾀｼはあの光景を思い出し大きな不安に押しつぶされそうになっていた。


「凛ちゃんｺﾞﾒﾝね。仕事に戻って」



ｱﾀｼがそういうとﾏｷは凛ちゃんの手を離した。

開放された凛ちゃんは余計な事を言ってしまったというような顔で厨房の奥へと戻っていった。



「ｱｽﾞ、陸とうまくいってないん？」



「そんな事はないと。。。思う」



凛ちゃんの話を聞いた後じゃ説得力もない。


陸はDJをしているんだからｸﾗﾌﾞへの出入りをとやかくいう事は出来ない。


陸の心はｱﾀｼから離れてしまったのかな。そう思うとﾋﾞｰﾙも喉を通らなくなっていた。




「陸にちゃんと確認しなよ」



「。。。うん」



気の抜けた返事にﾏｷは呆れた顔をしていた。

ｱﾀｼがﾄｲﾚに行こうと立ち上がった時ﾏｷの携帯が鳴った。

少し高めのﾏｷの声に電話の相手が亮さんだという事は分かった。

ｱﾀｼはﾏｷに手で合図をしてその場を離れた。


ﾄｲﾚの前まで行くと凛ちゃんが立っているのが見える。



「凛ちゃん」



「あ。。。」


申し訳なさそうな凛ちゃんは下向き加減にｱﾀｼをみた。



「さっきはｺﾞﾒﾝね。教えてくれてありがと」


今ｱﾀｼが出せる最高の笑顔で凛ちゃんの肩を叩きﾄｲﾚに入ると大きく溜息をついた。


そして少し気を抜けば出てきそうな涙をこらえながらｱﾀｼはﾏｷの所へ戻った。


ﾏｷの電話は終わっていてもう店を出る用意をしている。




「ﾏｷ？」


「ｱｽﾞ〜亮くんの所で飲み直そぉ〜」



こういう時ｱﾀｼに選ぶ権利はない。そしてｱﾀｼはﾏｷに引っ張られるがままﾀｸｼｰに乗り込んだ。