「ここ」



ここと言われてもお店らしいものがどこにもない。不思議そうなアタシをよそに車を降りる中山さんを追いかけると一軒の長屋の前についた。



「いらっしゃいませ~」



看板などどこにもでていないのに店内はいっぱいでとても流行っている。





「お蕎麦屋さんですか?」


「そうそう。嫌いだった??」


「好きですっ。」


「ならよかった。ほんまにココおいしいから。ちなみに高校の時ココでバイトしてた。笑」


アタシの知らない昔の中山さんを知ることができて嬉しくなった。


アタシ達がメニューに目を通していると一人のおばさんがテーブルの前に立った。



「中山くん!!」


「あ~お久しぶりです。あっ高崎。この人がここの奥さん」



「こんにちは」


「はいこんにちは。相変わらず可愛い彼女連れてるね。笑」



「違いますよ~」




彼女と一緒に来てたんだ。アタシがこんな気持ちになるのもおかしいけど少し胸が痛んだ。



中山さんが勧めてくれたおそばを頼むと奥さんは奥の方へと戻っていった。



「中山さんの彼女ってどんな方だったんですか?」



少し顔が引きつったようにも見えたけどアタシは中山さんの顔をみたまま返事を待った。



「ん~まぁ普通。笑」



表情を見ているとなんとなくこれ以上聞いてはいけないような気がして話題を変えた。



「今日の社長さんとはお付き合い長いんですか??」



「そうそう。長いんだぁ。。きっと高崎の事も可愛がってくれるから」




「はいっ」



運ばれてきたお蕎麦はとてもシンプルで特に驚くような感じでもなかった。


でも一口食べると今まで食べてきたものとは比べ物にならないほど喉越しがよくておいしかった。



なるほど。。看板なんてなくても口コミで広がる訳だ。



お腹いっぱいになった所で蕎麦湯を飲みアタシ達はお店を後にした。



車に乗り会社まで戻る間も中山さんの彼女の話をした時の表情だけが気になっていた。