結局アタシ達は次の日の朝も普通に起きていつもの会話をしうちを出た。


「じゃあね」


「うん。いってきます」


ホームで笑顔で別れた後もアタシの心は吹っ切れない。満員電車に揺られながらも陸の申し訳なさそうな顔がよぎる。


電車を降りるとちらつく雪の寒さにコートのボタンをしめて歩く。



会社の駐車場にはもう中山さんの車が停まっていた。アタシは急いで会社に入るとエレベーターを待ちながらあの日のキスを思い出していた。



「高崎さん頑張ってる?」


その聞き覚えのある声に振り向くとお局が後ろに立っていた。

相変わらず冷え性なのか何枚も重ねた靴下を履いてマフラーを巻き寒そうにしていた。



「はい」



アタシの返事にニコッと笑うと肩を叩きエレベーターの中に入った。そしてアタシもその横に並び4階に着くまで話すこともなくお互いの部署へと向かった。




廊下を挟んでガラスの仕切りの向こう側にはようちゃんと部長の姿も見えた。




「高崎おはよう」



急に声をかけられ驚いているアタシを見て中山さんが笑う。まるでこの間の事なんて覚えていないかのように普通で少し悲しかった。



「おはようございますっ」



無理に出した少し高めの声が響く。

慌てて自分の席に座りうちで復習してきた資料を机の上に出した。



中山さんもアタシの席の後ろを通り自分の席に着き忙しそうにどこかに電話をしていた。



そしてその電話が終わるとアタシを呼んだ。



「高崎今日は一緒に外回りな」


「えっ。。はい」



「じゃあ出るから」



みんなにそれだけ言うと中山さんはカバンにたくさんの資料やノートパソコンを詰めてアタシの背中を押した。




中山さんの車はいつものいい匂いがしていた。



「どこまでですか??」


「大阪~」



「あっはい」


「聞きたいことあったら時間あるし聞けな」




「はい」