玄関のドアを開けるまで中山さんの顔は見ることが出来なかった。
アタシの気持ちが揺れるのが怖かったんだ。
「高崎?」
優しい声がする方を見上げる。
「変な事言ってゴメンな」
「・・・そんなこと」
「これからもちゃんとお前の上司でいるから何でも相談して来いよ。笑」
そういって笑う中山さんに頷いてアタシは部屋を出た。
これでよかったんだと自分に言い聞かせて駐車場へと走った。
時間はもう20時を過ぎようとしている。
陸に電話しなきゃ。。
一回一回の呼び出し音がやけに長く感じる。
『もしも~し』
『陸ゴメン、今から帰るからっ』
『心配したんですけど。。』
『残業で。。』
アタシはまた嘘を付いた。
そして電話を切ったアタシは急いでその場から離れた。運転しながらも陸への言い訳を考えている自分が嫌になる。
でも正直になんて言えない。
何も疚しいことがなくても陸は中山という名前に過敏に反応することは分かっていた。
部屋の前につくと大きく深呼吸してドアを開けた。
「ただいまぁ~」
いつもより明るく言ったアタシの声は不自然だった。
それでもいつも通り笑いながらアタシを出迎えてくれる陸の顔を見て安心した。
「遅いし」
「ゴメン」
「寂しいし」
「ゴメン」
そう言いながらリビングに行くといい匂いがしていた。
アタシはキッチンに入り大きな鍋の蓋を開けるとカレーが作ってある。
「誰?」
「俺。笑」