ご懐妊祝いという事でアタシは4人分の支払いをして店を出た。


「なんかゴメンね」

そういう遙に手を振りアタシ達は車に乗り込む。


「アズさん。俺のお金も使ってよ〜」



「ボーナスもらったばかりやし大丈夫。笑」




前に陸に渡されたお金はまだ使ってはいない。
それでも今月分もその上においてあるのは分かっていた。


いつか2人で旅行とかに行く事ができたらその時に使わせてもらおうと思う。


「さっ帰ろっか?」


「だね」


帰ったらビール飲もう。そう意気込んでアクセルを踏む。


でも陸に聞きたい事があった。


お父さんの事。。

でも当たり前のように部屋を出て行くと言われたらと思うと中々口に出せないでいた。


「アズさん。。」


「ん?」


「何でもない」


陸は何を言おうとしてるんだろう。

アタシの得意な妄想はいい方には向かわない。


冷え切った部屋の暖房器具をすべてオンにする。



「アズさん?」


「ん?」



「4月になっても。。。追い出さないでね」


・・・陸


目の前で不安そうにアタシを見る陸がとても愛おしく思えた。


「当たり前。笑」


そう笑うアタシは一瞬で陸の胸の中に収まった。


陸の腕は苦しいくらいにアタシの体を締め付ける。


「俺、中山とアズさんがどうにかなるんじゃないかってずっと心配だった。」


「。。うん」



「俺頑張ってアズさんに頼られるような男になるよ」



「。。。うん」



陸はアタシの顔をあげてキスをした。


激しい中にも優しさがある陸のキスに体中電気が走る。


っん。


そしてそのままアタシの体はベッドへと運ばれた。



カーテンが開いたままの寝室はライトアップされた夜景の光でほんのりベッドに明かりを落としている。



「陸。。シャワー。。。」


「無理」


そのままベッドに座らされたアタシにまた深いキスが襲う。

そして一枚ずつ服を脱がされたアタシは上向きに寝かされた。



陸の細くて白い指が体に触れるとそれだけで体が反応する。どこで覚えてきたんだろうと思うほど陸はアタシの感じるところを知っていた。




「いい?」



「・・うん」


優しい目でアタシを見た後、陸の唇がアタシの唇から離れてゆっくりと下へとおりていく。


アタシの出す声に陸の呼吸が激しくなってアタシ達は一つになった。



外の光が陸の顔を照らす。


そんな愛しい陸の顔を見ながら握られた手を強く握り返した。





そしてアタシと陸は絶頂に達した。


それでも二人の体が離れることはない。




こんなに自分自身が感じたのは初めてだった。


そしてアタシの顔を見て嬉しそうに微笑む陸を見ると心から幸せを感じた。


「アズ」


そう言ってアタシを抱きしめる陸はアタシがまだ見たことのない男の顔をしていた。




「アズさんでしょ~笑」



「今だけアズにする~」



そう言った陸はいつもの陸でやっぱりカワイイ。




でもコンドームの箱は開いていない。ベッドの下に転がっているその箱を手に取り陸の顔の前に出す。



「意味ないし。。」



「ゴメン。。余裕なかったです。。」




「アホ。笑」




「次は必ず!!」




そう言ってもう一度アタシに優しくキスをした。







「シャワー浴びる?」



「陸先エエよ。。」



何も身に着けていないアタシにベッドから出る勇気はない。




「でももう1回したい~」




そう言ってアタシの上にまた覆いかぶさろうとする陸を押しのけてベッドから落とした。やっぱり17歳は怖い。。




「じゃあまた明日ね。笑」



そういいながら陸は浴室へと入っていった。



一人になったアタシはベッドの下の下着をかき集める。



とうとう陸と。。。


恥ずかしさと嬉しさでいっぱいになったアタシの顔が窓に映る。




そしてまた変な事を考えてしまう。。


あの陸の行為は一度や二度の経験で身につくものだとは思えない。




えっ?



慣れてる??




でもそんな事を考えてるのがバカらしくなって止めた。


別に過去は関係ない。




そんな事を言えばアタシも一緒だしキリが無い。



ただ未来が一緒ならそれでいい。



胸の上には陸からの印がついていた。



絶対アタシもつけてやるぅ~!!



そして陸と入れ替わるようにシャワーを浴びた。




「あ~!!!!」




リビングからは陸の叫び声が聞こえた。


アタシは浴室のドアを開け顔を出す。




「何~??」




「明日までに課題提出しないとヤバイんだったぁ~。。。」



そう言って慌しくカバンからレポート用紙を出す陸は完全に高校生に戻っていた。



その横でアタシは缶ビールを開ける。




「まじっすか?」



「まじっす。笑


自分の事は自分でしましょう」





「まじだぁ。。。」





そう言いながらアタシ達は外が明るくなるまで起きていた。




「陸行くよ~ほんまに間にあわへんって~」


「分かってるって」


陸の口にはフランスパンが入ったままアタシの車に乗る。

最近また車通勤になっているような。。。



「っで全部終わったん?」


「何とかね。。てかまじでアズさん手伝ってくれないし~」


そういってすねる陸は本当に昨日アタシを抱いた男なんだろうか。。


このギャップがまたアタシの母性本能を擽るんだ。。


もう完全に身も心もどっぷり陸にはまっていた。



「じゃあね」


「ありがとう」



いつもの場所で陸を降ろし会社へと向かうアタシは今日は何でも頑張れそうな気がした。



陸につけられたキスマークが見えないようにいつもより上までボタンを止める。







「おはようございま~す」


「アズさんなんかいい事ありました??笑」


「ないよ~」


「え~??笑」


アタシ達がエレベーターの前に着くとそこには先に中山さんが立っていた。ようちゃんはアタシに気を使うように一歩後ろに下がる。



・・・だから違うって。。。汗




「おはようございます」



「おはよ」



そう言って咳き込む中山さんは顔色が悪い。



「大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。」



エレベーターの中でも辛そうだった中山さんと別れアタシは自分の席についた。



風邪かな。。


でもアタシにはどうする事もできない。





お昼頃には中山さんの姿は見えなくなっていた。



「中山さん早退したらしいですよ」



「・・・そうなん?辛そうやったしたまにはゆっくりした方がいいよ」




「世話してくれる人とかいるのかなぁ??」




「中山さんの事だからきっといっぱいいるよ。笑」




「・・・ですね」


今日はなぜかいつもより来客が多くアタシは隣の部署のお茶出しに借り出された。


「ねぇあの人かな。。」


アタシより年下の女子社員が明らかにアタシの方を向いて言っているのが分かる。



きっとまた中山さん関係の事だろうな。。


もうこれ以上否定するのも疲れたアタシはその声が聞こえないフリをしていた。



「あのぉ。。」



「・・えっ?」



その中の一人がアタシの前に遠慮気味に立つ。




「あのぉ。。。高崎さんですか?」



「・・そうですけど」



その後少しの沈黙があってまた違う女の子がアタシの前に立った。


なんだか高校時代を思い出す。



アタシにはこの後のセリフが想像できた。




「中山さんの彼女さんですか??」



きた。。。



すでに一人の女の子は泣きそうな顔をしている。



まるでアタシが何か悪いことでもしているようで早くこの場から消えたかった。





「中山さんはアタシの憧れだし尊敬する上司だけど、そんな関係じゃないから。」





アタシの言葉に顔を合わせた二人はアタシに謝って逃げるようにいなくなった。




きっとあの子は前のアタシのように中山さんの事を思い続けているんだろうな。。







「アズさんお疲れ様でしたぁ」



「お疲れ~」



アタシとようちゃんが会社を出ようとした時携帯が鳴った。



陸かな。。



ようちゃんに先に帰ってもらうように言ってアタシは暖かいロビーへと戻った。




マキ??




『もしもし??』



『あっアズ?今いい?』



『うん。どうしたん?』




『さっき亮くんから電話もらったんだけど、中山さん相当調子悪いみたいだよ。』






『えっ。。うん』




『じゃあお見舞いよろしく。。』



そう言って電話は切られた。


中山さんのうちなんて知らない。。そういう嘘はマキには通用しない。



入社してすぐ中山さんに夢中になったアタシはマキと遥に会う度嬉しそうに彼の話をしていた。



そして会社で住所録を手に入れたのをいい事にその時の勢いで2人を車に乗せて中山さんちを探しに行った。



今思えば完全なストーカーだ。



でも一人でそこに行くわけにはいかない。




アタシはマキに電話を掛けなおす。



10回ほどの呼び出し音が鳴った後携帯は留守電に変わった。




もぉ。。。





中山さんには申し訳ないけどこれ以上陸に嘘はつけない。






アタシはそのままうちへと帰った。



玄関の鍵は閉まっていてまだ陸が帰ってないことが分かる。





頭の片隅では中山さんの事を気にしながらもアタシは部屋着に着替えて夕ご飯の準備を始めた。



そして炊飯器のスイッチを入れたところで携帯が鳴った。





『もしもしアズさ~ん?』



『うん。陸まだ帰れへんの??』




『なんか今日いつもレギュラーで回してるDJが来れなくなったらしくて変わりに行かないと行けなくって。。』




『・・・そうなんやぁ』




『寂しい??』





『・・ちょっとは。笑』




『じゃあ帰ろっかな』




『冗談。笑


エエよ行って来て。帰り駅まで迎えに行くから電話して』






『いいの?ありがとう。ゴメンね。。帰ったら昨日の続きね。笑』




『はいはい。笑』










時間は19時になろうとしていた。



夕ご飯は一緒に食べたくてアタシは陸の帰る時間まで溜まっているDVDを見ることにした。




陸がいないとこの部屋の広さに改めて気づく。






ピンポーン



あれ??


入れかけたディスクを机の上に置きインターホンの画面を覗く。





マキ!!!

何かを叫びだしそうなその顔はアタシにドアを開けるのを拒ませる。



それでも居留守なんて通用するはずもなくそっとドアを開けるとマキとバッチリ目が合った。



「陸は?」



そう小声で囁くマキはまだ理性が保たれていると思いアタシは少し安心した。




「おらへんよ」



「入っていい?」



「うん」




そう言って相変わらずお洒落に着こなしたマキが部屋に入る。


電話で話してから亮さんとの事を詳しく聞いていなかったしその事にすごく興味があったアタシはコタツに入ったマキに紅茶を入れその正面に座った。



でもマキの口から出たのはそんな言葉じゃなかった。




「ほんまに陸でいいん?」


はぁ??


その言葉にアタシはコーヒーカップを持ったまま固まった。






「急に何??」



「中山さんの事はもうエエの?」



「あれは昔の事やし、憧れで十分やから」



マキは大きく息を吸ってアタシの顔を見る。





「中山さんはアズが好きなんだって!!」



えっ。。。



「・・・でも」





「亮くん言ってたよ。ずっと前からアイツはアズちゃんを想ってるって」





中山さんがアタシの事をずっと。。。?



それをすぐに信じろという方が無理だ。


あの中山さんだよ。



アタシはいつまでも手に持ったままのカップを置くことも口にする事も出来なかった。








「アズ?」



「・・・・」



正直アタシの頭の中はいっぱいいっぱいになっていて何を答えればいいのかどうすればいいのか。。。そしてどうしたいのか分からなくなっていた。



さっきまでのアタシは陸の事で頭がいっぱいだったはずなのに、今は違う。





そんな自分が嫌だった。




「陸があかんって言うてるんじゃないで。すごいエエ子やし、アタシも好きやけど。。今アタシらのこの年と将来の事考えたらアタシは。。。」






「・・うん」


マキが言ってる事は間違ってはいない。



多分アタシがマキの立場でも同じことを言ったと思う。



でも今陸と別れて中山さんの所に行くなんてできない。





「よく考えなね」




「・・うん」





「あっ中山さんの所には亮くんが行ってるから。今頃亮くんの手作りお粥でも食べてるんじゃない?笑」





「そっか。。


マキは亮さんのどこが好きで付き合う事にしたん?」





「そうやなぁ。。一緒にいて落ち着くところ。。。かな。笑」




一緒に居て落ち着く。。かぁ。。



なんとなく分かる気がした。




アタシが納得しているところに携帯が鳴る。



「陸?」



「うん」




「じゃあアタシ帰るね。」




そう言ってマキは部屋を出て行った。





『もしもし?』



『アズさん遅くなってゴメンね。もうすぐ駅着くからぁ~』




『分かった。今から行くっ!』




アタシは鏡で自分の顔を見てから車の鍵を取り部屋を出た。



中山さんの気持ちを知って嬉しくないわけがない。



でも今のアタシが大切なのは陸だった。




車のエンジンはなかなか温まらなく車内は冷えきっている。




もう少し重ね着してくればよかったかも。。




そう思いながらもアタシは駅に向かって車を走らせた。




今は早く陸に会いたかった。






駅に着くと陸はロータリーで寒そうに待っていて車に気づき笑顔でこっちに走ってきた。



その笑顔に勝てるものなんてないよ。



「ゴメンね」



「エエよ~」



「エエよ~笑」



「いい加減それしつこくない?笑


しかも陸が関西弁上達してるようには思えへんし。」




そういうアタシの頭をクシャクシャにしながら陸は笑っていた。




「ご飯何~??」



「陸の分はないよ」



「まじ??」




「遅いのが悪いっ!」




「またそんな事いうし。。」







そういじける陸をそのままにしてマンションまで帰った。


もう22時を過ぎているせいか人通りも少ない駐車場でアタシ達はどちらからともなくキスをした。




自分の中の迷いを消したかったからかも知れない。



陸の背中に回した手に力が入る。




「なになに??そんなに寂しかった?笑」




「・・かな」




そういって少しの間アタシ達はそうしていた。







玄関のドアを開けるとタバコの匂いが残っているのが分かった。



「誰か来てた?」



「うん。マキ」



「俺も会いたかったなぁ~」




そういう陸の顔を見ることが出来なくてアタシは出来上がっていた八宝菜を温め直しにいく。



さっきまでここで中山さんと陸の間で揺れていたなんて知ったらどう思うだろう。。





「ちゃんと俺のもある!!笑」



アタシの隣に立って笑う陸は何の疑いも持たない目をしていた。


そしていつものようにお箸とコップを運んでくれる。




アタシ。。何悩んでたんだろう。。




この好きっていう感情がなによりも大切で他には何も入らない。




この時、確かにアタシはそう思っていた。