「テ、テレビ!つけてもいい?」



「ん?ああ、いいよ」



パチン



私たちはいつも通りの日常生活を送っているのに、世間は忙しいようだ。



明るくなった画面からは、特集が流れている。



思い出を売るなんて、非現実的な偉業を成し遂げた科学者の話だ。



私はとりあえず逃げられたことに安堵していた。



でも、話題の科学者のインタビューに切り替わると、私の頭からテレビをつけた理由なんて消えていた。




私も涼も画面を見つめたまま、動けない。



それもそうだ。



報道陣に囲まれている科学者は、瀬野友貴。
 








私たちの友人だ。




「え?」



「なんで、友貴が?」



「思い出を売るってどういうこと?」



よくわからない私をよそに、涼はわかったらしくて。



自慢気に、ほくそ笑んでいた。



「教えてほしいか?」 



「うん!」



「えーと、だから科学の技術で、人から思い出だけを取り出す」



「思い出だけを?じゃあ、自分がどこに住んでいるのかとか、自分は何歳かとかはわかっても、楽しかったことは忘れちゃうってこと?」




「わかってんじゃねーか」




つまらなそうに、再びキッチンに戻っていく涼が、一瞬、本当に一瞬。



真面目な顔になって、テレビを見直した。



ちょっと不思議に思ったけど、それほど気にしなかった。