「どんだけ樹里ちゃんのこと気に入ってるんだか。」
七瀬さんはやや呆れ顔
でも、何処か嬉しそう
大翔に抱きしめられるのは嫌ではない
寧ろ、落ち着くんだ
「出来た。食べよ」
テーブルには野菜炒めに肉じゃが、ご飯と味噌汁が並んでいた
「時間がなかったからこんな物しか作れなかったけど許してね」
《これだけで充分です》
“いただきます”と手を合わせてから七瀬さんの作った肉じゃがを食べてみる
うん、美味しい。
美味しくて自然と笑顔になる
「姉貴、合格。美味しいってさ。」
「どうして分かるの?」
「樹里の表情。肉じゃが食べた後の樹里、笑顔だったから」
大翔、良く分かってる
箸を置きボードに“美味しいです”と書くと七瀬さんは喜んでいた
「ほんと~?良かった。いつも大翔にしか作らないから他の人の意見も聞きたかったの」
本当に美味しい
それからはあたしは話せないから七瀬さんと大翔の会話を楽しんだ
2人の会話を聞いてたら面白い
あたしも仲間に入りたいな、なんて思った
「そういえば、姉貴って彼氏居なかったっけ?」
「別れたよ。とっくの昔にね」
七瀬さんって彼氏居たんだ
「でも、当分は居なくて良いかな。可愛い妹、出来たし」
七瀬さんはあたしを見てニコッと微笑んだ
「お父さんとお母さんに報告しよ~♪“大翔が可愛い子連れてた”って」
「アイツ等には言うな。面倒なことになる」
珍しく大翔が焦ってる
そんな姿が可愛い
学校じゃ勝真君と居る以外一匹狼なのにね
「樹里ちゃん、また会ってくれる?」
七瀬さんの言葉に嬉しくなって…
《もちろんです。お姉ちゃんが出来て嬉しいです。慣れたら妹にも会って下さいね?》
「樹里ちゃんも可愛いけど妹も可愛いんだろうなぁ。」
「樹里の妹、可愛いよ」
そういえば、大翔は会ったことあったね
「今は樹里ちゃんが居るから良いわ。またお話しようね」
七瀬さんは“また来る”と言って去っていった
「姉貴はな、同じアパートに住んでるんだよ。大学卒業して就職はせずにバイトしてた店で働いてるんだ」
大翔が七瀬さんについて教えてくれた
「来ようと思えばすぐ来れる。樹里が居るって分かったら飛んでくるよな」
大翔の話を聞きつつ疲れが溜まってるみたいでいつの間にか眠っていた
大翔*side
過ごしていくうちに
キミのことを
離したくないと思った
それだけ俺は
キミに夢中に
なっているんだ
樹里*side
キミの優しさを
知ってしまうと
頼ってしまう
他の人なら怖いけど
キミなら大丈夫
そんなキミに
少しずつ惹かれてる
自分が居る。
強がっている君は
本当は弱くて脆い人
そんな君を
支えてあげたい
***************
気持ちよさそうに眠る樹里
姉貴が帰った後も話をしていたけど、いつの間にか眠っていた
疲れたんだろうな。
乗り気じゃないのに外に連れ出したし。
でも、楽しそうで良かった
少しずつ外に連れ出すのも気分転換になるかもしれない
「樹里、そんなところで寝たら風邪引くぞ」
そう呟くと起きそうにない樹里を抱きかかえてベッドに寝かせた
……軽すぎる。コイツ
しかも、可愛い格好してるし。
思いっきり姉貴の趣味だ
だけど、樹里も好きそうだな
樹里を寝かせた隣に俺も寝転がり頭を撫でているといつの間にか眠りについていた
-----翌日
目が覚めて周りを見渡すと樹里の姿はなかった
……どこ行ったんだ?
起き上がり探してみる
すると狭いところにうずくまっている樹里を見つけた
「樹里」
----ビクッ
俺の声に反応しゆっくりと顔を上げた
「おはよ。どうした?」
樹里の目線に合わせて話をする
樹里は俯いたままだ
「ボードに書いてみ」
俺は樹里にボードを渡す
《大翔はどうしてそんなに優しいの?》
「樹里だから優しくするんだ」
《大翔の取り巻きの女子、たくさんいる》
「あんなの、鬱陶しい。俺の気持ちを知らない奴らばかりだから。」
一応、良いヤツ演じたりしてるけど最近はそれすら面倒になってきた
《大翔って人気だもん。そんな人とあたしが居たらダメだから帰るね》
樹里は立ち上がり去ろうとする
「樹里、待て。」
俺は樹里を引き止める
「お願い。帰るな」
樹里は首を振る
俺が樹里と居たいんだ
《離して。帰る》
「やだ、離さない」
樹里を強い力で抱きしめる
「俺が優しくするのは樹里だから。他の女には興味ない」
耳元で囁くと赤くなっていた
……可愛い
《大翔はズルい》
「ズルい?この俺が?」
《そんな言葉、耳元で話さないで》
樹里は俺の中でじたばたする
樹里の力なんて全然耐えられる
「樹里、俺は樹里の傍に居る。だから、樹里だけは特別」
樹里以外の女には興味の欠片もない
「樹里、いつまで強がってんの?もうそろそろ諦めたら?」
目にはたくさんの涙を溜めて今にも泣きそうな表情だ
《あたし、大翔に迷惑掛けてばかりだから泣かない。大翔は人気者だからあたしより相応しい子たくさん居るよ》
そう書き終えると樹里は下を向いた
「迷惑だと思ったら此処までしない。女なんて鬱陶しい」
《じゃあ、あたしも鬱陶しいよね》
「樹里は特別だって。俺は樹里の支えになりたい」
冬華に出来ないサポートは俺がしたい
「周りに心配掛けたくないから強がってんだろ?」
樹里は驚いた顔をしたものの、正直に頷いた
《だって、あたし話せないし言いたいことも言えない。あたしが弱音吐いたらみんな心配する》
だから、無理に笑顔作ってたのか。
《それに話せない分、ボードや紙に書いても信じてくれない。だから、あたしは人を信じない。どうせ、離れていく。離れられるくらいなら誰とも仲良くならない》
書くだけ書いて樹里は立ち上がりソファーに座ると顔を伏せてうずくまった
樹里なりに葛藤してる
それを受け入れることも必要だ。
「樹里、顔あげて」
隣に座り不安にならないように優しく声を掛ける
しかし、樹里は顔を上げようとしない
「大丈夫。大丈夫だから、俺の話を聞いて。」
すると樹里はゆっくり顔を上げた
「俺はね、樹里のことを知りたい」
案の定、驚いている樹里
「今まで出会った女は本当にどうでも良かった。だけど、樹里のことは知りたいと思った」
これは俺の本心。