____放課後
あっという間に下校の時間
冬華は用事で帰ったし大翔は小牧先生に呼び出された
「樹里の写真、いつ見ても落ち着く」
と言ってくれたのは実夢
“一人で帰すのは心配だから”という大翔の要望で実夢が相手をしてくれている
大翔や冬華、実夢のおかげでこのクラスでのいじめはない
大翔や冬華が用事の時は実夢とあたしが撮った写真を見る
そのたびに実夢は写真を褒めてくれるんだ
「この中ではこの写真が好き」
と指差したのは奏哉さんと花菜ちゃんの横顔の笑顔の写真
「樹里だから撮れる1枚だと思うな」
恥ずかしいけど《ありがとう》と書いたボードを見せた
「樹里、帰ろう。上條、樹里の相手ありがとう」
大翔が帰って来たので帰る準備を始める
「樹里の写真見るの楽しみだからお安いご用です。樹里、またね」
実夢は笑顔で帰って行った
最近の実夢、笑顔が増えた気がする
「最近の上條、良く笑うようになったな」
実夢の姿が見えなくなってから大翔が呟いた
《あたしも同じこと思ってた》
と書いたボードを見せると大翔は微笑んだ
「上條が笑うのは紛れもなく樹里のおかげだな」
……そうかなぁ
あたしの表情をみて分かったのか…。
「樹里が優しいから上條も心を許したんだよ。樹里の良さを周りが知らないだけ」
と話してくれた
少しでも実夢の役に立ててるかなぁ。
「さっ、帰ろう。母さんたち待ってるし」
今日は大翔の家族と夜ご飯を食べるの
お父さんと樹音の二人での家族day
たまには時間を作ってあげなきゃ
おばあちゃんとおじいちゃんも旅行に出かけた
だから、相馬家にお世話になるのです
……といっても七瀬さんは仕事の都合上、来れないらしい。
大翔曰く“行きたかったのにー‼”とぼやいてたんだとか。
「七瀬が来れない分、母さんが張り切って料理してるさ」
最近、気づいたこと
大翔は毒を吐くときには“姉貴”ではなく“七瀬”と呼ぶ
なんだかんだ言って信頼している証拠なんだろうなぁ
「母さんたちが樹里に優しくするのは俺の彼女として認められた証拠だから」
そういうと大翔はリングのしてある指同士を絡めた
誕生日に大翔がくれたリングはあたしのお気に入り
この、リングを見るたびに元気になる
「樹里。俺には樹里だけだから。これから先も樹里のこと大切にする」
サラッといいのける大翔
聞いてるこっちが恥ずかしい
だけど、その反面嬉しいと思う自分がいる
「体育祭と文化祭が終わったら出掛けような」
そういえば代休だった
なんて考えながら家路に着いた
「ただいま」
「樹里ちゃん、おかえりー‼」
七絵さんは一目散に駆け寄ってきてあたしを抱きしめてくれた
「母さんはなんだかんだいってやっぱり樹里だな」
“挨拶したのは俺なのに”と大翔はなんだか不服そう
「だって、樹里ちゃん可愛いんだもん」
母親のいないあたしのことを分かってくれて七絵さんはあたしを娘のように可愛がってくれる
「久志が樹里ちゃんが来るの待ってたから手洗いうがいして着替えてから行きなさいね」
相馬先生、忙しいのに来てくれたんだね
「樹里、行ってこいよ」
大翔に背中を押され着替えてから相馬先生の元に向かった
といっても大翔が寝てる部屋なんだけど。
あたしが入って来やすいようにと扉は開けられていた
「樹里ちゃん、来たね。座って」
相馬先生は病院とは違うラフな格好であたしを出迎えてくれた
「気分はどうかな?」
《今のところ、発作も起きないので体調も良いです》
周りの気遣いがあってか発作も起きていない
「そっか。良かった」
相馬先生はあたしが不安にならないように微笑んでくれた
《体育祭と文化祭のカメラマンやることになりました》
今日、あった出来事を書いていく
相馬先生はあたしが書くのを隣で頷きながら見ていた
そして、その事をメモしていく
あたしの気が済むまで話を聞いてくれるこの人はとても優しい人だ
「大翔の様子は?」
《大翔は相変わらず優しいです。あたしの親友も“雰囲気が柔らかくなった”って言ってました》
「それは紛れもなく樹里ちゃんのおかげだね。昔は手のつけようのないヤツだったからさ」
小牧先生も同じこと言ってたな
「大翔にとっては樹里ちゃんと出会って良かったみたいだからあんな息子だけど宜しく頼むよ」
あたしは笑顔で頷いた
あたしも大翔と出会って良かったって思ってる
声が出なくなって真っ暗だった世界
だけど、大翔と出会ってその世界が明るくなったのだから…。
それからあたしの気持ちが落ち着くまで話を聞いてもらった
「じゃあ、今日はここまでね。今度は向こうにおいで」
“向こう”とは大翔の実家
大翔が居なくても行けるようにならなきゃいけない
それがあたしの前に進む第一歩
「樹里ちゃん、行こう。七絵と大翔が待ってる」
相馬先生に促されリビングへ戻る
「樹里ちゃん、終わったー?お風呂入っておいで。その間にご飯の準備をしておくわね」
七絵さんの言葉に甘えてお風呂に入る
大翔の家、一人暮らしにしては広いんだよね
一人になるのが怖くて早々とお風呂を出た
「樹里、飯食べるぞ」
あたしの存在に気付いた大翔が呼んでくれた
「今日はお寿司にしたからね」
七絵さんがどこからか出前を取ってくれたようだ
「お寿司嫌いだった?」
不安そうに聞く七絵さん
《大好きです》と話せないので文字にする
それを見て七絵さんは安心した表情を見せた
お父さんと旅行に行った時にもお寿司食べたな
「樹里ちゃん、好きなだけ食べなさい」
相馬先生に言われゆっくり食べ始める
「樹里って美味しそうに食うよな」
《お寿司、好きなんだもん》
食べながら器用にペンを走らせる
“お行儀悪い”って言われるかもしれないけどこうでもしないと会話が出来ない
「本当、樹里ちゃんのおかげで大翔の雰囲気柔らかくなったわよね」
「中学生の時は扱いに困ったもんだ」
「大翔の力には負けるから放っておくしかなかったのよね」
二人は懐かしそうに大翔の話をする
当の本人は“そうだっけ?”って顔してるけど…。
でも、恥ずかしいのか時折、顔を真っ赤にしていた
その度、両親からからかわれる始末
あたしは大翔の昔話が聞けたし新たな大翔の顔が見れて嬉しいけどね。
他愛のない話をしながら大翔の家族との時間を楽しんだ
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月日が経ち体育祭、文化祭の時期となった
春川学園では2日間かけて“春川祭”として行われる
あたしはカメラマンとして校内を回ることになっている
「樹里、これ着て」
周りが準備で慌ただしい中、冬華が紙袋を持ってきた
あたしは首を傾げながら中身を見ると制服だった
黒チェックのスカートにピンクのブラウス
「樹里がカメラマンって分かるようにってお父さんが準備してた」
嬉しそうに語る冬華
でも、カメラマンを引き受けたおかげで体育祭と文化祭出なくて済む
「絶対似合うよねー‼着替えよ」
冬華に連れられ更衣室に向かう
「着替えたら鈴鳴らして」
着替えなきゃいけないのか。
夏服は夏服なんだけど、春川学園の夏服とは全く違う
指定は紺色のスカートに白のブラウスだから。
着替え終わり鏡の前で一周してみる
普段と違う服装だとワクワクする
《よし!!》
自分の中で気合いを入れて冬華に知らせるために鈴を鳴らした
「うん。やっぱり似合うね」
あたしの鳴らした鈴の音に気付きそう呟きながら入ってきた冬華
《変じゃない?》
不安になったあたしは咄嗟にそう書いた
「大丈夫!!髪型もチェンジしよ」
楽しそうにする冬華に振り回されるあたし。
でも、冬華に振り回されるのは嫌いではない
奈那と同じであたしの大好きな親友だから
いつの間にか椅子に座らされ髪の毛を弄られている
鼻歌を歌いながらあたしの髪の毛を弄っている冬華は楽しいという証拠
「出来たー‼どう?」
手鏡を渡されたので見てみる
あたしじゃないみたい
ゆる巻きのツインテール
「普段、樹里がしないような髪型にしてみた。大翔もびっくりするね」
冬華はちゃんとあたしの事を分かってくれてる
「樹里のもう一人の親友も来るんでしょ?なら、可愛くしなきゃ。大翔の為にもね」
この人があたしの親友で良かった。
冬華や大翔、支えてくれる人がいるからあたしは少しずつ前に進めてる。